莉子はせっかく時間をかけて施した、3Dネイルをオフして、ピンク色の無難なネイルにやり直した。
右の小指と、左の薬指にだけ小さなストーンを2つ飾った。
ネイリストである自分と、タイプが全く分からない男を相手にする時の瀬戸際をしっかりと抑える。
女子受けする煌びやかであでやかな装飾をしたネイルは、そんなに男性受けは良くない。
ネイリストとしてやるのは楽いし、客のオーダーのその先まで莉子が気をかけてあげる事もないが、自分自身に対しては、莉子は最大限の気を使う。
「ケイ」と会うときは、色は好きに使うが、ストーン等装飾は使わない。
「ユウ」と会うときは、最新ファッションの流行りを重視して、ストーンや3Dなども多用する。
自分のスキルも上がり、男は合わせてくれる女を好む心理を突いていく。
「いつから、だろう。昔は無意識だったのに…」
莉子は自分のネイルを改めて眺めたあと、その手でハンドルを握り車のエンジンをかけた。
カーナビでは30分で到着予定と表示されている。
今は18時ジャスト。
莉子がブレーキを足から離し、アクセルを踏み込む。
それは本来ありたかった、莉子のファーストステージへのアクセルが踏み込まれた瞬間でもあった。
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天然悪女から、真正悪女が生まれる時。些細な嫉妬からもたらされた、新たな唇が莉子を目覚めさせる。