NOVEL

悪女 ~ Movement of the mouth ~ vol.3

 

約束をしたのは、翌週火曜日の19時だった。

小枝子から送られてきた住所まで、莉子が車で行くことになった。

 

車で行けば、お酒は飲めないかもしれないが、反対にお酒を勧められた時には、泊っていけばいいという会話に持ち込める。

数時間一緒にいても見えない、気が抜けた瞬間を見たい。

莉子はそう思って車で行くことを提案したのだ。

 

小枝子の家は郊外の一軒家で、駐車スペースはとれる事も確認した。

 郊外の一軒家。

賃貸なのか、購入したのか。

 

二人の新居として?

 だから、ホームパーティーか。

 色んな探りを巡らせていたが、小枝子は何の躊躇もなく全ての手札を莉子にさらけ出してきた。

 

 

新居は、分譲住宅を新築で購入したこと。

旦那とは仕事関連の飲み会で知り合ったこと。

お互いに束縛しあわず、仕事第一主義なところが心地良いと思って入籍を決めたこと。

ちなみに、子供はおらず、相手はバツイチである事。

 

しかし、相手の職業については、会ってから話すと言われた。

説明が面倒だからとの事だった。

 

莉子は数少ない情報を組み合わせて、手堅いファッションを選んだ。

ボディラインが見える白いニットに、紺の少しフレアになるロングスカート。

攻撃的過ぎず、女性的にみえるスタイル。

友人の旦那に紹介されるのに、肌の露出は避けた方が良いし、清楚な雰囲気を嫌う男性はまずいない。

 

小枝子とは最近は顔を合わせていないが、SNS等を見ていて、いまだにアジアンスタイルを守り抜いている事は解る。

だからこそ、そこに差を持たせる事が大切だった。

 

莉子には、小枝子の旦那を取りに行くつもりなんて毛頭ない。

だが、もしも、何かあったときの為に、莉子は常に誰かと会うときは、相手に好印象を与える事を重要視していた。

 

メイクは濃すぎずナチュラルに。

アクセサリーも小さめのものをチョイスする。

しかし、小さいからといって、安物はつけない。

もし、相手が目利きだった場合、安い女とみられてしまう。

 

色んな男たちを見てきて、下品で下等なオヤジでも、時にそういうものに詳しい奴が居たりする。

 そういう場合、自分よりも下とみられるよりは、良いものを上品に身に着けている女、という評価をもらった方が、自分の気持ちを下げずに済む。

 

反対に、大きなブランドロゴをモチーフにした物を身に着けるより、小さく高価な物の価値を見極められる男を掴んだ方が、利点が大きいことを莉子は良く知っていた。