NOVEL

悪女 ~ Movement of the mouth ~ vol.3

 

小枝子からの日程の連絡は、その日の夜にもたらされた。

旦那とのすり合わせに時間をとったのだろう。

数日希望日が送られてきていた。

 

土日を避けた平日の夜を指定されていた。

 莉子は、自分のスケジュールを見る。

インターネットの受注作業は、いつでもできるし、ネイルサロンに直接来てくれる顧客は、金持ちの主婦が多く大体の予約が昼間だった。

 

平日の夜で気にしなければならないのは、たまに連絡を取るパートナーくらい。

現在、固定で会っている男性は、出張族で月に数回こっちに来る時に会う程度の間柄の「ケイ」と、自称資本家で投資家を名乗っている「ユウ」位だ。

 

「ケイ」はコロナ禍によって出張も減り、会うことは年に数回しかない。

「ユウ」は気まぐれなので「明日どうかな?」と連絡が来るが、断っても支障はない。

毎回誘われれば会える程度の女とは、長く続かないタイプだ。

 

二人ともタイプは全く違うが、口の動きが下品ではないので、切れずに長く続いている。

「ケイ」は育ちが良いのだろう、無駄な動きがなかった。

それとは真逆で「ユウ」は個性的な唇の動きを見せるが、育ちが悪いのではなく、内面の傲慢さだった。

それでも下品に見えないのは、心の底にある財閥の息子であるという安心感なのだろう。

 

他にも居なくはないが、コロナ禍で会うのは控えよう等と言われたきり連絡を取っていない奴らが数人いるくらいだった。

会社からのNGだとか言い訳はばかりだったが、結局はお金の切れ目が縁の切れ目というものだと莉子は理解していた。

 

去る者は追わず。

来るものは選ぶ。

莉子はそのスタンスを崩す気は毛頭ない。

 

どれも、小枝子の旦那を値踏みする事よりも重要なスケジュールではない。

なので、小枝子のLINEにも夜ならいつでも空いているとすんなり返信できた。

 

小枝子からは、この時期だし家でホームパーティーしようか?

 という返信が返ってきた。

 

『ホームパーティー』という文字に目がチカチカする。

小枝子はそんなキャラだっただろうか?

 それも、男の影響なのか?

幸せな家族感を演出してくるような、女子力の持ち主ではなかったはずだし、少なくとも莉子にそういう表情を見せたことはなかった。

 

微妙なイラつきを覚えながらも、莉子は『いいね』と書いてあるスタンプを送り返した。