グラスに押し当てる下唇の動きは良かった。
―これで、私のお城ゲットかなぁ。私はインドなんて行かないわ。―
莉子の思惑通りに、30歳の誕生日には莉子名義のマンションを購入する事が出来た。
自分名義で購入するとは言わない男。
投資した金額分を回収できれば、あと腐れない男。
それが、莉子にとっての最高のパートナーだった。
お金に不自由しているわけではないが、莉子は今でも宴席コンパニオンの仕事の誘いは断らない。
口の動がセクシーな紳士探しを怠らない。
しかし、コロナ禍になりネイリストとしての仕事も減ってきて、コンパニオンの仕事も来なくなった。
そんな時に小枝子から、連絡があった。
『入籍しちゃった。結婚式とかはもう年だしする気はないけど、一生一緒にいたい人を見つけた!』
とりあえず、いっとく?
身体の相性が絶対条件でしょ!
そう言って笑っていた小枝子が、見つけた一生一緒にいたい人?
莉子が今の莉子として生きる指針になった小枝子が、見つけた幸せ?
莉子はスマホを握りしめながら戸惑いを隠せなかった。
ネイルサロンが繁盛していなくても、ネイルチップの通販事業など手広くやっている為、仕事が滞る不安なんてなかった。
独身でいる不安も感じたことがなかった。
そこではない。
『一生一緒にいたいほどの相手。』とは・・・?
初めて、莉子は小枝子を遠くに感じた。そして、不快感を覚えた。
莉子は実年齢を言わないし、20代といえば誰もが信じてくれるビジュアルを保ち続けている。
でも…
―私、まだ…恋を知らない。―
そう呟いた唇が下品に歪んで動いていた。
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深夜に鳴り響いたスマートフォン。それは小銭箱扱いしていた男からのものであった。だがその電話の声は聞き覚えのない女からのものだった。