NOVEL

悪女 ~ Movement of the mouth ~ vol.1

 

 

グラスに押し当てる下唇の動きは良かった。

 ―これで、私のお城ゲットかなぁ。私はインドなんて行かないわ。―

 莉子の思惑通りに、30歳の誕生日には莉子名義のマンションを購入する事が出来た。

 自分名義で購入するとは言わない男。

投資した金額分を回収できれば、あと腐れない男。

 それが、莉子にとっての最高のパートナーだった。

 

 

 

 

お金に不自由しているわけではないが、莉子は今でも宴席コンパニオンの仕事の誘いは断らない。

 口の動がセクシーな紳士探しを怠らない。

 

しかし、コロナ禍になりネイリストとしての仕事も減ってきて、コンパニオンの仕事も来なくなった。

 そんな時に小枝子から、連絡があった。

『入籍しちゃった。結婚式とかはもう年だしする気はないけど、一生一緒にいたい人を見つけた!』

 とりあえず、いっとく?

身体の相性が絶対条件でしょ!

 

そう言って笑っていた小枝子が、見つけた一生一緒にいたい人?

 莉子が今の莉子として生きる指針になった小枝子が、見つけた幸せ?

 莉子はスマホを握りしめながら戸惑いを隠せなかった。

ネイルサロンが繁盛していなくても、ネイルチップの通販事業など手広くやっている為、仕事が滞る不安なんてなかった。

独身でいる不安も感じたことがなかった。

 

そこではない。

『一生一緒にいたいほどの相手。』とは・・・?

初めて、莉子は小枝子を遠くに感じた。そして、不快感を覚えた。

 

莉子は実年齢を言わないし、20代といえば誰もが信じてくれるビジュアルを保ち続けている。

 でも…

―私、まだ…恋を知らない。―

 そう呟いた唇が下品に歪んで動いていた。

 

 

 Next:1月17日更新予定

 深夜に鳴り響いたスマートフォン。それは小銭箱扱いしていた男からのものであった。だがその電話の声は聞き覚えのない女からのものだった。