斗真が結婚すると知った翌日。しわくちゃになった服を見て、朝からため息をつく。
重い体を起こして服を洗濯機の中へと放り込む。
今日は休みだし、もう一眠りするか。
そう思ってもう一度布団の中へ潜り込む。すると、LINEの通知音が鳴った。
前回▶婚活物語〜ハイスペ男と結婚したい―vol.8 再会の果て〜
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「急だけど、今日会えませんか?」
送信相手は和哉さん。斗真の結婚で落ち込んでいた私。タイミングが良いような悪いような複雑な気持ちになる。こんな気持ちで和哉さんに会ってしまったら、まるで斗真を忘れるために利用しているようで罪悪感が芽生えた。
「ごめんなさい、体調が優れないのでまた誘ってください」
お断りの連絡をし、頭まで布団を被る。体は疲れているのに、目を瞑ってもちっとも眠くならない。そう思っていたとき、携帯から着信音が鳴る。画面に表示されるのは「坂本和哉」の文字。
「もしもし」
「ごめん、やっぱり会いたいです。」
電話に出ると、普段からは想像できないほど積極的な和哉さん。今まで、デートの誘いを断ったって「わかった」と返事が来るだけだった。電話があったのは初めてだ。
「…体調が悪くて、ごめんなさい」
体調が優れないことを言い訳にするしかなかった。別に行こうと思えば、どこにだって行ける。でも、今日は和哉さんに会いたくなかった。
「どうしても伝えたいことがあるんです」
「夜でもいいし、少しの時間でもいい」
「僕の話を聞いてくれませんか?」
電話越しの声から、和哉さんの意思の強さが伝わる。それだけ、今日という日にかけていることがわかった。和哉さんの声を聞いていると、元カレのことで落ち込んでいる自分が嫌になる。今の私の彼氏は、和哉さんだ。
「夕方、迎えに来てもらってもいいですか?」
和哉さんとの待ち合わせ時間は16時。そして5分前、家のチャイムが鳴る。インターフォンを覗くと、和哉さんの姿が映っていた。
「お待たせしました」
玄関のドアを開けると、嬉しそうに笑って私を見つめる和哉さん。その笑顔を見ていると、斗真のことで落ち込んでいた自分がバカらしく思えた。私には、こんなに愛してくれている彼氏がいるじゃないか。
和哉さんに促され、車の助手席へと乗る。
「何ですか?話って」
運転している姿を横目に問いかけると「もう少ししたら話します」と返された。いつもだったら、どこに行くか教えてくれる和哉さんだが、今日は「秘密」と言って教えてくれず他愛もない話が車内で繰り広げられる。
普段の優しくて真面目な和哉さんの姿はもちろんあるけど、今日はいつも以上に男らしい気がした。普段とは少し違った姿に、私の胸はキュンと鳴る。