NOVEL

婚活物語〜ハイスペ男と結婚したい―vol.9 幸せなのに…〜

車は1時間ほど走らされる。そして「着いたよ」と和哉さんの声がして降ろされたのは名古屋駅近くの高級ホテル。自宅からさほど離れていない場所で降ろされたことに気づいた私に対して「莉奈さんと話したかったんで、遠回りしました」と笑う和哉さん。少しだけ、可愛く思えた。

 

エレベーターに乗ると、和哉さんが押したのは最上階のボタン。エレベーターにいるのは私と和哉さんだけ。狭い空間で2人きり。今までも同じようなシチュエーションがあったのに、なぜだか今日はいつもより緊張する。

エレベーターが最上階へと着き、扉が開く。目の前には、窓から見える夜景とおしゃれなレストランが広がっていた。

 

「…ここは?」

 

あまりにも素敵な光景に目を見開くと「ずっと連れてきたかったんです」と和哉さんが言う。今までもいろいろなお店に連れて行ってもらったが、今日のお店は明らかに違う。

 

「和哉さんって、良い店いっぱい知ってますよね」

「莉奈さんに喜んで欲しくて」

 

そう言って微笑みながら、席へと着く和哉さん。その姿はスマートだ。席に着いてからしばらくすると、続々と料理が運ばれてくる。フルコースを和哉さんが予約してくれていたようだ。

 

「今日は何で、行き先教えてくれなかったんですか?」

「莉奈さんへのサプライズですよ、たまには良いでしょ?」

 

空間のせいだろうか、私の頭の中は和哉さんでいっぱいになりそうだ。今だったら、どんなにクサいセリフを言われたってキュンキュンする自信がある。それくらい、私はこの空間に酔っていた。

 

「そういえば、話したいことって何だったんですか?」

 

今日、ずっと気になっていた話題を出す。ちょうどメインを食べ終わって、デザートが運ばれてくる間の時間だった。もうデザートを食べたら帰るだけだろうし、今だったら教えてくれるのではないかと思ったからだ。

 

私の問いかけに一瞬、顔が強張る和哉さん。どことなく、緊張している様子が伝わった。そして一瞬間が空くと、お店の電気が一気に真っ暗になる。最初は停電かと思ったが、奥からろうそくの火が近づいてくるのを見て、何となく状況を察する。

そのろうそくの火が向かってきたのは、私たちのテーブル。そしてテーブルに、ろうそくの乗ったケーキが置かれる。暗くてどんなケーキなのかはわからない。でも、今日は特別な記念日でも、誕生日でも何でもない。そんな日にケーキがあるなんて、理由は1つしかない。

 

「莉奈さん、僕と結婚してください」

 

暗闇の中、目の前から和哉さんの震えた声がする。それと同時に差し出される両手。手の中には小さな箱がある。そしてゆっくりとその箱が開かれた。中から現れたのは、シルバーリング。和哉さんらしい、シンプルなデザインのプラチナリングが、ろうそくの火で灯される。

和哉さんがプロポーズの言葉を口にした途端、お店に沈黙が流れる。私と和哉さんの心臓の音だけが聞こえるようだ。

 

私は和哉さんの手を取る。それと同時に、ケーキの上にあるろうそくの火を吹き消した。私がろうそくの火を消すと同時に店内の明かりが一気につく。

テーブルに置かれたケーキを見ると「Will you marry me?」と書かれている。目の前の和哉さんは震えた声から想像通りの緊張した表情をしている。

 

こんなに素敵な人にプロポーズされるなんて、私は幸せ者だ。和哉さんと結婚したら、絶対に幸せになれる。

 

そう思っているはずなのに、私の口は自然と動いていた。

 

「少しだけ、考えさせてください」