NOVEL

妻のトリセツ vol.8 ~裕司の苦難~

 

そうだ。あいつがすぐに戻ってきて、土下座して謝り続けるというのなら、こっちだってまだ寛大な対応をしてやれなくもない。

 

(丸の内の事務所の、弁護士だという輩には番号を教えられたが、怒鳴りに行ってやろうか……)

 

そうだ、とそこで裕司は思い至った。

 

(もしかしたら、加奈恵はその弁護士とか言う怪しい奴に、騙されているんじゃないか?)

 

あいつは馬鹿だからな……と、まったく違う方向の心配をし始めてしまう裕司だった。しかし、それならそれで不安だ。それに、この生活がこのまま続くと、いずれ外にバレるだろう。体裁が良くない。会社での俺の出世にも関わってくるかもしれない。

加奈恵の電話にはずっとかけ続けていたが、やはり繋がらない。仕方なく、何日目になるか分からない、一人で布団にくるまって寝る夜が続いた。

 

***

 

それから、また数日後。

 

「弁護士の……宇居さんとおっしゃいましたね」

『はい。お電話をありがとうございます、天城さん』

 

宇居と名乗った女性は、丁寧でしっかりとした物腰だった。

とうとう耐えられなくなった裕司が、加奈恵の居場所を聞き出すつもりで電話を掛けたのだ。ついでに嫌味もありったけ言ってやるつもりだった。

 

「妻が出て行ってから大変なんですよ。あんな奴でもいないと家事をやってくれる人間がいないことが分かりました。だから、加奈恵の居場所を教えてくれませんか。連れ戻します」

『……』

 

宇居は、一瞬だけ黙ったが、その後でこちらの話をきちんと聞いてくれた。思ったより話が通じるのかもしれない。

気が付けば、裕司は加奈恵や春樹への不満を口にしていた。宇居はそれらも黙って聞いてくれたが、最終的に言ったセリフはこうだった。

 

『ですが、天城さん。加奈恵さんの居場所は教えられません』

「どうしてですか!? 春樹も連れて行ってるんでしょう? このままだと、春樹の成績や内申にも影響するかもしれないんですよ。あいつは受験で忙しくなる時期なんです。高校受験に影響したら、あなた、責任取ってくれるんでしょうね」

 

しかし、宇居は裕司の脅しに屈しなかった。その代わりに、更なる提案をしてきた。