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水希は最後まで機嫌が悪かった。
当たり前だろう。ようやく会えたとか、ずっとデートしたかったと言っていたくらいだし、それが一時間やそこらで解散させられてしまっては腹も立つに違いない。
しかし、こちらの本命は、そもそもその上司のスキャンダルなのである。賢人はいよいよ膨らむ期待を胸に、目的の地域へと向かった。
(まあ、大体の予想はつく。片っ端から当たってみるか)
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水希は――。
水希は、嫌な予感がしていた。
賢人さんは何を考えているのだろう。
去り際の彼の表情は、どう考えても、今夜私と早く別れることになって寂しいとか、そんな感じではなく……。
何か、高揚しているような?
駅の中を歩く。コツ、コツ、とゆっくりした足取りのハイヒールが床を鳴らした。
酔っ払い達の何人かが水希に好色な視線を向けてきたが、それらをいつも通りの頑なな姿勢でかわしながら、水希は考え事にふけっていた。
(……まさか?)
思い至った水希は、そこで、ふっと顔を上げる。整い過ぎるくらいに整えられたメイクが、夜の街並みの明かりに照らされて映えていた。
来た方角を振り返る。嫌な予感が増幅する。
「……賢人さん」
綺麗な形の唇が、その名前を紡いだ。
Next:11月8日更新予定
先輩記者にスクープがとれそうだと話す賢人。これから張り込みだと意気込み、高級住宅街にある実業家の家でついにスクープを撮ることに成功する。しかし、その帰り道、あろうことか水希に見つかってしまう。