一気に面倒臭くなった賢人は、適当に最近取材に訪れたところのことを脚色して、でっちあげの履歴を作り上げた。
だが、賢人はもともと大学も有名なところを出ているし、頭の回転が速い。そのため、たいていのことはごまかせてしまう。
そのため水希も、「へえ、素敵ですね……!」と、目を輝かせながら、賢人の架空の職歴を聞いてくれた。
大学時代の、実際のやんちゃ話。大学を出てからの、きらびやかな嘘の遍歴。織り交ぜながら話していくことで、真実味が増すことを彼は知っている。今までも、こんなふうに仮面を使い分けながら生きてきたのだ。
そして。
「ねえ、水希さん。今度、僕、水希さんの職場まで迎えに行きますよ。そうしたら、水希さんと長くデート出来るじゃないですか」
そんな殺し文句を言う。
すると、案の定水希には効いたようで、彼女は賢人の顔を見て顔を赤くした。
「あの……。そ、そうですね。職場まで、ですか?」
「職場の近くまででいいですよ」
「えっと、でも、それはちょっと……。私も確かに、賢人さんには会いたいんですけど」
「何か問題でも?」
「その……」
水希としては、当然秘密厳守しなくてはならない立場だろう。だが、賢人の知ったことではない。
「僕に会いたくないですか?」
「とんでもないです!その……。……もっと仲良くなったら、せめて」
「良かった!」
そこから先は言わせない。賢人はそれだけ言うと、彼女の口を塞ぐようにして口付けた。
一瞬驚いた様子の水希が目を見開くが、すぐに賢人に身を委ねてきた。
ひとときの夢に酔うのもいいだろう。問題は、それがいつ覚めるか分からないことだ。