結城賢人はスクープ記事を狙っている雑誌記者。とある実業家にスクープの匂いを嗅ぎつけるが、周囲が堅く守っておりその瞬間を激写出来ない。
しかし、彼の近くにいる美人秘書の存在に気づき、彼女から切り崩す作戦に出る。ある夜、賢人は偶然を装って仕事帰りの水希に接触する。
(ずいぶんと、寒くなってきたな)
ミッドランドスクエアに立ち並ぶ高層ビルに挟まれた、青い色が印象的なコンビニ。そこでコーヒーを購入して、外に出る。
肌寒くなる空気を感じ、結城賢人は一人呟いた。
同じくコンビニに入ろうとした、いかにもオフィスレディー風な二人組が、ちらりと賢人を見る。一瞬、「きゃあ」と、少しだけ色めき立ったのを賢人は見逃さなかった。
賢人は美男子である。
眉は少し濃いめだったが、くっきりとした印象的な目鼻立ちは精悍な印象を与えた。睫毛は男性にしては長め。身長もある。
黙っていれば、俳優で通ったかもしれない。
……しかし。
「くそっ……。オギワラの野郎、さっさと尻尾出しちまえよ……!」
賢人は苛立たしげに独り言を言う。
オギワラ。……中年の実業家。高級時計を腕にはめてベンツを乗り回すような、脂ぎった男。
そいつにスクープの匂いを嗅ぎつけたのだが、幾ら張り込んでもちっとも決定的な瞬間が激写出来ない。
そのことは賢人と、ひいては彼が勤める雑誌社を大いに苛立たせていた。
(……本人が駄目なら、周りから切り崩すしかないか……)
賢人がコーヒーをぐいっと煽ると、不意に野太い声が聞こえてきた。
「おう、どうした、結城。荒れてんな」
「草壁さん。……どうも」
ちょうど賢人が勤めている出版社から出てきたと思しき先輩記者の草壁が、遠くから賢人に手を振って近付いてきた。
賢人が頭を軽く下げて挨拶すると、傍に寄った草壁が声を潜めた。
「そんなお前に、いい情報があるぞ」
「いい情報?」
草壁の様子に、賢人も周囲を気にして自然と声が小さくなる。
「ああ。……オギワラの秘書。そいつも、何か知っているかもしれない」
「秘書……」
賢人は脳内の情報を必死に検索した。ええと……。確か、オギワラの傍には、いつもきりっとした女が控えていたような。
「あの美女ですかね」
「そうだ。そいつを調べれば、何か出てくるかもしれない」
「ふむ……」
賢人はもっともらしい声を上げ、考えた。
「問題は、どう近付くかなんだけどな」
草壁は豪快に、ははは、と声を上げ笑った。一方で賢人は考え込む。
(美人秘書か……)
スクープのため。雑誌のため。
これでスクープが取れれば、己の出世にも繋がるかもしれない。
そして、賢人は顔を上げた。その整った顔を。
(美人秘書に、近付くか)
にやりと人知れず、笑みを浮かべる。
綺麗な顔に似つかわしくない、あくどい笑みだった。