カウンターに出されたカクテルに唇を付ける。舌先に鋭い感覚が広がり、微かに香るレモンが複雑なこのカクテルの味を引き締めている。
「私も、はじめにその決定を聞いたときは驚いたんだよ。あんまりいきなりだったからねぇ」
「米田さんも理由は聞いてないんですか?」
米田は、泡が既に半分ほどなくなったビールに喉を鳴らしている。液体の中に湧き上がる気泡も、勢いが弱い。
「詳しいことはね。他企業とのタイアップが進んでいるということではないみたいなんだけれど」
状況がよくわからない。広報部に詳しい情報も卸さずに、何を足掛かりにプロモーションをしろというのだろうか。頭のなかで考えがまとまらないことや、理不尽への単純な怒りから、声を上げそうになる。会食の場に選んだバーの空気が、それを静かに、しかし圧すように抑えてくれている。
「それよりも、真鍋さん、この後って」
「・・・すみません。今日はこのまま」
「そうか。わかったよ」
◆
翌朝の仕事はうまく集中できなかった。原因がわからないことをひたすらに考えても、時間の無駄であることは重々わかっているし、メンバーにもいつも伝えていることなのだが。パソコンのキーボードと自分の手の位置が気になる。机と、椅子に座る自分の距離が気になる。いつもよりも画面がまぶしく見える。
「課長、大丈夫ですか?」
課のメンバーである島田が声をかけてくる。私が担当する1課の女性メンバーだ。今年から導入されたオフィスカジュアルに苦戦しながらも、身を整えている。
「大丈夫よ」
島田がお菓子を勧めてくれる。疲れたときは甘いものですよ、と笑いながら自身もチョコレート菓子を頬張っている。私も渡された棒状のチョコレート菓子に口を付ける。今考えるべきは、何が起きており、何を解決すべきなのかだ。昨日の米田との会食で得られた情報は、皆無に等しい。米田自身もあまり状況を把握しきれていないとのことだった。
(この月初のタイミングに、狙ったかのように連絡がくるなんて・・・)