NOVEL

女の顔に化粧をするとvol.10 最終回~策動~

雅さんから連絡があった。

またどこかのタイミングで会いたい、とのことだった。真鍋さんとは別れたようだ。

私にとっては、良かったような気もするし、良くなかったような気もする。真鍋さんと雅さんを引き離すために、私がいろいろと働きかけたのだ。

 


前回▶女の顔に化粧をするとvol.9 ~略奪~

はじめから読む▶女の顔に化粧をするとvol.1 ~思いがけない知らせ~ 

 

「責任」という言葉を私が使ってもいいのかわからないが、責任は取らなければいけない。

真鍋さんは、私がそういう女であるとわかっていながらも、真摯に向き合ってくれた。その姿勢は、私が取った行動全てを見ていると示されているようで、気圧(けお)されてしまいそうだ。しかし、私も向き合わなければいけないのだ。

 

「真鍋課長、こちらの資料どうでしょうか・・・?」

「お疲れ様。見ておくから、こっちに置いておいて。ありがとう」

 

真鍋課長は、私たちメンバーが行った仕事に対して、必ず一言を添えてくれるようになった。そのおかげで、課の雰囲気はとてもよくなっている。他のメンバーも、真鍋課長に相談している姿を見かけることが多くなった。

今までは、私の全てを奪った人としてただただ憎いだけの対象だったが、今となっては尊敬すらしている。

私は、ただ自分のエゴを彼女にぶつけて叫んだだけだった。それを彼女は、大きな仕事が白紙になって、ぼろぼろの精神状態の中で、更に私に向き合おうとしてくれたのだ。

 

これからは私が、まっすぐに向き合わないといけない。そうでなければ、あそこまで真鍋課長を傷つけた私を、私自身で認められなくなってしまう。

 

 

一人一人が次に向かい始めた。私も、島田も、雅も、今まで停滞していた時間が少しずつ動き始めた。

とはいえ、昨日と今日で過ごす日々が変わるわけではない。これからも変わらない日常の中にある、微かな変化にいちいち心を揺らしながらただ生きていくのだろう。

 

たまにお酒をいれながら、落ち込んだり、喜んだりを繰り返して進んでいくしかないのだ。

先がどうなるのかわからない。その時々の自分や周りの人と向き合って、少しずつ…。

 

でも、きっと、周りを思いやることを忘れなければ、いつでも誰かが助けてくれるだろう。だから、きっと、これからも私たちは安心して歩を進めていけばよいのだろう。

 

 

「真鍋さんって、そんな顔するのね」

 

真鍋さんのあんな顔は初めて見た。いつも淡々と仕事を済ませ、凛としている真鍋さん。どんな状況でも月の売り上げの目標をクリアし、次につなげる武器も準備する。部下のミスも、多角的な目線をもって解決に導く。その手腕は真鍋さんの同期の島田とは、一線を画していた。