NOVEL

女の顔に化粧をするとvol.10 最終回~策動~

でも。

 

でも、真鍋さんは、私のことを全く見てくれない。

 

でも。

 

その真鍋さんが今、目の前で私のおすすめのエスニック料理を食べている。神妙な面持ちで、仕事では絶対に見せないその表情を、私に向けている。香辛料の香りと、真鍋さんの香水の香りが混ざって、私を刺激する。

 

これは、価値があった。

 

島田に真鍋さんの大型案件を横取りする算段を間接的に伝え、真鍋さんの精神状態を不安定にしつつ、私は島田の現場を抑える。

私がさりげなく伝えた場所だ。あとは島田のスケジュールを確認して、直帰する際、企業訪問が入っている場所を確認すれば大体のタイミングはつかめる。出てくる島田と清水を写真に抑え、今、この場に持ってきている。

 

更に、真鍋さんが島田の想い人を恋人にしたとき、泣きじゃくる島田のことを必死に慰めたから、島田と真鍋さんの恋人との関係も知っていた。

今の真鍋さんを見る限り、その恋人ともあまりうまくいっていないのだろう。この精神状況であれば、島田を使うことで真鍋さんを恋人と自然に引き離すことも可能だ。

 

全て私が密かに企んだ内容ではあるが、実際の行動は全て島田が行う。それも自分から。

私は適切なタイミングで、真鍋さんの話を聞き、少し後押しするだけだ。あとは、因果が勝手に事を進めてくれるはずだ。

 

お昼ご飯を食べ終わった。飲み物を飲み、紙ナプキンで口回りをなぞる。とても美味しい食事だった。独特な調味料の風味だが、くどくなく、すっきりと頂くことが出来る。バランスが完璧なのだ。

目の前のことも、あと一つ調味料を加えることで、完璧な塩梅となる。

 

「最近、何かあったでしょう」

「まぁ、いろいろ」

 

この回答でほぼ確信に変わった。

恐らく、雅との関係が芳しくないのだろう。島田が雅に、何かアプローチをした結果だと思われる。思わず舌なめずりをしそうになる。必死に気持ちを抑え、無表情を貫く。

 

ここだ。ここで最後の調味料を投じる。

 

「あなたのところの島田って子。気を付けた方がよいかもしれないわよ」

 

そう言いながら、タブレット端末を取り出し、先日納めた清水との写真を見せる。

真鍋さんの表情が、また変わった。こんなにもコロコロと変わる表情に愛くるしさすら感じる。ここからは過剰に加える必要はない。むしろ、今まで撒いた種を馴染ませていく。

 

これで、真鍋さんは一人になる。

 

私のものになるのは、もうすぐだ。

 

 

The End