株式会社楽趣味の化粧品事業部商品企画部一課の真鍋加奈恵は
「最小限の努力で最大限の効果を生み出す」ことをモットーとしているやり手女課長。
常に一歩先を見据える彼女が見落としていたものとは!?
「それでは、本日の全体朝礼を始めます。」
朝8時45分。全体朝礼開始。
「先月の売り上げについて報告します。先月は昨年同月比にて115%の着地となりました。」
「新商品のリリースを行ったにもかかわらず、130%に届かなかったのは?営業課1課の田代。」
「メインのターゲットとして設定していた20代後半~30代の女性からの反響が目標に達しておらず、想定が甘かったことが原因かと。」
8時50分。月次結果報告ミーティング。
昨年前月比や先月比での結果を社内大会議室にて報告する。
会議室内のモニターには、各部署の部課長が集まっており、各々の報告を事業部長が聞いている。営業一課課長の男性、田代は、淡々と状況説明と分析を続ける。
「営業一課に限らず、先月の商談数は平行線ですが、受注数には伸びが見られます。商談や顧客管理の仕組み化の効果が表れているものと思われます。実際に営業メンバーの作業時間は先月比で・・・」
愛知県名古屋市に本社所在を置き、2年前に上場した弊社”株式会社楽趣味”は、上場した勢いを殺さぬように、ひたすらに新商品開発と販路の拡大に力を注ぐ。
美の女神の名前と掛け合わせ、”趣味のように楽しく美しくなってほしい”そのような願いを込められた企業名と、ひたすらに売り上げを追う社内の空気は、まるで社会そのものを表しているようにも思える。
「次に、商品企画部一課の真鍋。報告を。」
「はい。」
私、真鍋加奈恵は、この楽趣味の化粧品事業部商品企画部一課の課長として、日々の業務をこなしている。
大学で専攻していた生化学や生物学の知識、入社してから培ったマーケティングの手法を活かして、商品開発やSNSやメールを使ったプロモーションの企画などを行い、課長の職に就いた。
「先月の新商品では、20代後半を狙い、皮脂や乾燥を防ぐ目的で開発しました。テスターやアンケートによる統計も踏まえ、デザインも企画しましたが・・・」
ただの理由付けだ。
理由が必要なのだ、もはや化粧品は大手メーカーが開発を行いつくしており、飽和している。
数年前までは安定的に成長していた市場も、最近になって歯止めがかかっている。さらに人口減少に伴う市場の縮小や、インターネット販売による評価の拡散により、国内での化粧品販売の状況は難しくなるばかりだ。