彼曰く、この時期はいつもオーストリアにいるらしいが、偶然帰国しており同級生の婚約パーティにやってきたそうだ。
「夏蓮は今、外資系OLなの?」
「そう、気がつけば歳だけ取ってるの」
「わかる」
ウイスキーのロックを口にする彼が楽しげに目尻にシワを寄せて微笑む。
「ねぇ、夏蓮」
ギムレットに浮かんだ薄氷を含みながら私は横目でそっと彼を見ると、どうやら久々の酒と言っていたのは嘘ではなさそうで、すっかり頬は赤い。
「付き合ってる恋人とかいるの?」
控えめに塗った桃色のジェルネイルで、ボブに切り揃えた髪の毛をそっと掻き上げる。
「髪綺麗だね」
彼が鮮やかなイヤリングカラーの髪にそっと触れようとした瞬間に
「恋人...いないって言ったら、どうする?」
真正面から少し挑戦的に微笑んで見せた。
「俺と付き合わない?もちろん結婚を前提に」
「本気?」
「もちろん、夏蓮もそろそろ人生のパートナーとか欲しくないの?」
さぁ、どうかな?なんて言うが、私は自分の容姿も性格も全て把握していて、武器を沢山作り手に入れたいものをいつのまにか囲っていることに彼は気づかないだろう。
このネイルだって、甘めのメイクだって、激務と言われる仕事もさらりとこなしているように見せて、心をくすぐる流行りのイヤリングカラーのヘアも手に入れた。
「私でいいの?他にも女の子とかいるんじゃない?」
「もう沢山の子相手にするの疲れたし、いない」
「今は、でしょ?」
目の前で散らされる小魚なんて食べはしない。狙うは大きなロブスターだ。
「さっきの婚約パーティ見てたら、なんか結婚っていいかもなぁって急に思ってさ。周りの奴も身固めてるしさ、俺も歳を取ったよ」
すっと私の襟足に彼の手が差し込まれると、黒と茶色の髪のコントラストと金色のピアスが間接照明に光る。
「夏蓮もモテると思うしさ、いっそお試し感覚でどう?」
ふふっと微笑んだ。
「いいよ」
そっと彼の手に自分の手を重ねる。
悪い女。
暖かな感触により熱が籠もる。
彼との明日は想像できないが、近い未来は形作れる。
数ヶ月後、私たちは婚約した。
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結婚式の打合せが終わり仕事の残る婚約者を見送った夏蓮は偶然、初恋の人・ノアが働く花屋を見つける。