翌日から私のインスタに大きな変化が起こった、みるみるうちにフォロワーが跳ね上がり、今まで何も反応もなかった写真にコメントが山のようにつく。
”この洋服カワイイ!”
”Marilynちゃん、本物のお嬢様なんだ。いいなぁ”
”このレストラン、なかなか予約取れないんだよね”
”マリリンちゃん美人すぎ!憧れちゃう!”
1週間で約束通り100万のフォロワーがプラスされていく。
お世辞にしか思えないベタ褒めのコメントも、私の自信と承認欲求を押し上げるには十分だった。
その後、フォロワーは鰻登りに上がっていき、私をまとめたサイトが出来たり、ファンサークルができたり、有名ブランドのレセプションパーティに呼ばれたりと、私が憧れてた”インフルエンサー”に君臨することができた。
週1で配信しているライブは先程のレストランで、シェフとの会話や美しい料理、そして着てきたドレスや小物を視聴者たちに紹介する、とてもハイクラスな番組。
2時間ほどの配信も終わり、一息つく。
「万丈様、いつも本当にありがとうございます」
店のオーナーが挨拶にやってきた、オーナーと祖父は昔馴染みの付き合いだ。
「お祖父さま、お元気でしょうか?またお店の方にもお時間あればお寄りくださいとお伝えくださいませ」
「分かりました、今日はありがとう」
早々に片付けを済ませると、私は店を出る。
私が居たテーブルには、食べられなかったコース料理の残骸が色とりどりに残っていた。
◆
「茉莉花お嬢様、どうぞ」
ずっと私を待っていた運転手の井口が私から荷物を受け取ると、さっとBMWの後部座席を開けた。
私はふうとため息をつくといつものように座席に座り込もうとした...だが、先客がいることに気づくとおもむろに表情が曇る。
「どうした、早く乗れ。こんな遅い時間まで何をしているんだ、お前は」
それは私がずっと苦手にしている人物、父の貴行だった。
不貞腐れた顔で返事をせずに無言で隣に座る。扉がバタンと閉まった。
「SNSで顔出し配信?しているのか?...井口に聞いたぞ。全く...相変わらず恥知らずな娘だ」
「子供扱いしないで下さい、私はもう21歳です」
トランクに私の荷物を積み終えたのか、再び背中から振動が車に伝わった。
「自分自身のことを管理できない人間を”子供”と言うんだ!」
大嫌いな父の怒鳴り声にびくりと肩が震えた。そして車が静かに出発する。
外の煌びやかな街灯と車の流れる光に目を移した。
「週末には蔦茂で角脇くんと会うんだからな。せめて大人しくしておけ」
角脇俊太郎、名前と簡単なプロフィール、そして写真。年上のその青年と私はどうやら結婚の約束をするらしい。