名古屋の令嬢、茉莉花は毎日招待されるセレブパーティに飽き飽きし、親と喧嘩して車を飛び出した。あてもなく歩いていると高級住宅地の中に美しい花屋があるのを見つけた。
その中では美しい男性が花束を作っていた。吸い込まれる様に店内に入って行く。
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この世は、金だ。
そんなことはないと反論する人々が沢山いることも分かる。
分かってほしいとは思わない、でもやはり金があるには越したことはない。
洗練されたセンスと美味しい料理が揃って、手持ちのLEDライトをひとたび点灯すれば
私ではなく、現役大学生の令嬢インフルエンサーが顔を出す。
「ハロー、皆さん。名古屋発の正真正銘お嬢様!Marilynの配信はっじまるよー」
マグネットネイルで彩られた両手のひらを広げると、にこっと笑ってみせた。
『MarilynのLIVE配信』がはじまると
”きゃー”
”マリリンちゃん、今日もめちゃカワ。そのワンピって限定ものだよね!”
”さすがはお嬢様、目の保養すぎ”
そうなんだーと、ミルクティーブラウンでゆるく巻いたボブの髪の毛を軽く揺らしながら、買ったばかりの涼しげなワンピースを指でつまんで見せる。
”ね、立ってみせてー、瞬殺でネットでも売り切れて買えなかったんだよねー”
”Marilynちゃん、さすがだねー”
視聴数も跳ね上がり、「いいね」のハートが止まらない。
私はいいよーと言いながら立ち上がると、足元のルブタンのヒールをかつんと鳴らしながらくるりとターンした。
”ステキー”
画面の向こうから、まるで大勢の見えない誰かのため息が聞こえてきそうなほどの吐息を確かに感じた。
私は今日、予約半年待ちのイタリアンのディナータイムを貸切にし、馴染みのシェフと話し合って、500万人フォロワー達成のお祝いを盛大にしていた。
インフルエンサー、私はそう呼ばれている。
実際、そうだった。かつては私もSNSでインフルエンサーやセレブに憧れる唯(ただ)の一人だった。
だけど生まれた時から、自分は豪邸に暮らし、祖父が大成功させた自動車産業の財閥一族の一人で、生まれてから何不自由ない暮らしをしている人間だと自他ともに知ることになってから、私は金で何でも買えることを知る。
インスタをはじめたのは大学生になってから。
自分でも発信できると思った。
とにかく有名になりたかった。
自分を、見てもらいたかった。
私は、持っていたブランドものの洋服やバッグ、アクセサリーで自らを飾り毎日インスタに写真を沢山挙げた。
他にずっと夢でもあり、大学でも専攻している”あるもの”のデザイン画などもあげてみた。
でも褒めてくれるのは周りにいる友人だけ、他には見向きもされない。
そして私は、はじめて気まぐれでフォロバしてくれた1000万人超のフォロワーを持つインフルエンサーにフォロワーを増やすコツをDMで相談してみた。
すると
「まずはフォロワーを買ってみたら?100万人ぐらい」
とアドバイスされた。
親からもらっているお小遣いの中から私はとある界隈を通じて、フォロワーを買った。
罪悪感なんてあるわけない。
全てこの世は、金で買えるんだから。