NOVEL

「Lady, Bloody Mary」~女の嫉妬~ vol.7

 

「そう..ねえ」

ふっと周りを見つめると、名古屋の眩い夜景が眩しい。

その先に、一人の同じ年ぐらいのスーツ姿の男性が座っているのを見つけた。

思わず見つめると、視線に気づいたのか男性も微笑んで会釈した。

つられるように紗夜も会釈する。男性が立ち上がった、手に持っているのはウィスキーだ。

 

「宜しければ、お隣いいですか?」

どうぞ、と紗夜は答えると男性はぎっと音を立て椅子に座った。

暖色系の間接照明で互いの顔がぼおっと見える。だが男性はとても端正な顔立ちだった。

紗夜はジンフィズを頼むと、爽やかなレモンの香りと共にぐっと飲む。

 

 

「お酒、強いんですか?」

男性はすぐ近くの商社に勤める会社役員だという。

 

「そんなに。普段はあまり飲みません」

紗夜は気取ったような声を出し、乾き物のナッツを口にした。

 

「今日はかなりお疲れのようだ」

「...仕事で色々ありまして」

一気にジンフィズを飲み干すと、男性もお代わりのウィスキーを頼んだ。

 

少し酔いが回ってきた紗夜は、次に久々にハーバードクーラーを注文した。

学生時代、よく友達と飲んでいたカクテルだ、金色に輝く甘いカクテルで一気に喉を潤す。

 

「すごい飲みっぷりだね、大丈夫?」

思えば紗夜は隣に腰を掛けた男性の顔をよく見なかった。

バーの暗がりに乗じて酔いもあり、あまり見えないが清潔感があって、真っ青なネクタイと細身のスーツを見事に着こなしている。

モテるのだろうな、とぼんやりと紗夜は思った。

 

「大丈夫です」

わざと突き放すように言葉を返す。こういう時、誘われたい時は昔は甘い声とか出せたのにな...と頭の片隅で考えてもいた。

 

コトンと空になったグラスをカウンターに置くと、紗夜は

「もう一杯」

「もう止めたほうがいいんじゃない」

少し焦るように男性がすっと手を出した。ロレックスのデイトナ、いい趣味してる。

 

ふらつく頭、ふふっと笑う、それは自分でも気づかない紗夜の微笑みの音だった。

「なに?口説きたいんですか?」

いつもの自分じゃないみたい、と冷静に紗夜は自分を分析していた。