「そう..ねえ」
ふっと周りを見つめると、名古屋の眩い夜景が眩しい。
その先に、一人の同じ年ぐらいのスーツ姿の男性が座っているのを見つけた。
思わず見つめると、視線に気づいたのか男性も微笑んで会釈した。
つられるように紗夜も会釈する。男性が立ち上がった、手に持っているのはウィスキーだ。
「宜しければ、お隣いいですか?」
どうぞ、と紗夜は答えると男性はぎっと音を立て椅子に座った。
暖色系の間接照明で互いの顔がぼおっと見える。だが男性はとても端正な顔立ちだった。
紗夜はジンフィズを頼むと、爽やかなレモンの香りと共にぐっと飲む。
「お酒、強いんですか?」
男性はすぐ近くの商社に勤める会社役員だという。
「そんなに。普段はあまり飲みません」
紗夜は気取ったような声を出し、乾き物のナッツを口にした。
「今日はかなりお疲れのようだ」
「...仕事で色々ありまして」
一気にジンフィズを飲み干すと、男性もお代わりのウィスキーを頼んだ。
少し酔いが回ってきた紗夜は、次に久々にハーバードクーラーを注文した。
学生時代、よく友達と飲んでいたカクテルだ、金色に輝く甘いカクテルで一気に喉を潤す。
「すごい飲みっぷりだね、大丈夫?」
思えば紗夜は隣に腰を掛けた男性の顔をよく見なかった。
バーの暗がりに乗じて酔いもあり、あまり見えないが清潔感があって、真っ青なネクタイと細身のスーツを見事に着こなしている。
モテるのだろうな、とぼんやりと紗夜は思った。
「大丈夫です」
わざと突き放すように言葉を返す。こういう時、誘われたい時は昔は甘い声とか出せたのにな...と頭の片隅で考えてもいた。
コトンと空になったグラスをカウンターに置くと、紗夜は
「もう一杯」
「もう止めたほうがいいんじゃない」
少し焦るように男性がすっと手を出した。ロレックスのデイトナ、いい趣味してる。
ふらつく頭、ふふっと笑う、それは自分でも気づかない紗夜の微笑みの音だった。
「なに?口説きたいんですか?」
いつもの自分じゃないみたい、と冷静に紗夜は自分を分析していた。