NOVEL

「Lady, Bloody Mary」~女の嫉妬~ vol.7

 

「やっぱり行きましょう」

「えー、大丈夫よー、だって寝不足なんでしょ?私も昨日は寝てないわ、それでも今日のプレゼンを終わらせたのよ、まだ若いんだから働かないと...ねっ?小竹さ...んっ!」

ばんっと背中を叩くリノ、思わず坂間がリノを止めた。

 

「三宮さん、それはやりすぎです。さすがの僕も怒りますよ」

「えー、ごめんねー、これも先輩の”優しさ”なの、この会社の名物よ」

「そんなの...僕は、認めません」

リノの言葉を一蹴し、坂間はふらつく紗夜を連れ医務室へ向かった。

 

空いていた真っ白なベッドに紗夜は横たわると、こう言った。

 

「ねえ、坂間くん。私、今日ちゃんとプレゼンできたかな?言えたかな?」

思わず最後は涙声になる。欲深くはあったが、リノが坂間を抱いている姿だけは見たくなかった。まだ聖奈の方が百万倍ましだったのだ。

 

「言えてたよ、俺、感心しちゃった。やっぱり小竹さんは仕事めちゃできる人だね」

優しければ優しいほど、彼が欲しくなる。

紗夜はふっと笑って、手を差し出した。その手をそっと取る坂間。

 

かすかに消毒液の匂いがする。外からは歩く社員たちの足音。

その中での静かな空間は紗夜の心を落ち着け、寝息を立ててやっとしばしの

休息を取ることができた。

 

 

紗夜が目を覚ますと既に外は真っ暗であった。

誰も気を使って起こしに来なかったのか、坂間が皆に伝えてくれたのか身体はすっかり軽くなっていた。

オフィスに戻ると既にもうほぼ人はおらず、紗夜は挨拶をするとそのまま会社の外に出る。

 

坂間の暖かな掌の感触を思い出しながらも、昨日の2人の唇も思い出す。

スマホを開くと、今日は誰からも連絡が来ない。

恋人とも、セフレとも、元カレ、誰とも連絡を取りたくない。

 

紗夜は久々に、以前上司に連れていってもらった、とあるビルの最上階にある高級会員制のバーに足を運んでいた。

既にその前にトイレで髪の毛を解き、化粧直しをしてオフの紗夜へと戻っている。

バーカウンターに座り、ぼーっとする。

 

「今日は何をお出ししましょうか?」

中年の細身のバーテンが、紗夜に声を掛けた。