鈴木から詳細について説明したいと言われ、近くの喫茶店にて待ち合わせることとなった。
待ち合わせ場所に向かうと、鈴木と桜井が奥の席で待っていた。
はじめから読む:きっとこの先は。vol.1~この夜を迎えるまでは~
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鈴木はホットコーヒー、桜井はクリームソーダを頼んでいたようだ。
「お待たせしました」
「いえ、こちらこそ急にお呼び立てして申し訳ありません」
鈴木の顔にいつもの笑顔はなかった。スーツは少し皺が寄っており、くたびれている様子だ。
「桜井さん、クリームソーダですか」
桜井は、こちらに顔を向けてほほ笑んだ。
「えぇ、喫茶店に来ると、いつも頼んでしまうんです」
その笑顔は鈴木とは対照的に見えた。鈴木はコーヒーを一口啜(すす)った。まだ少し熱いらしく、液体と唇を恐る恐る近づけながら、やっとのことで口に含んでいた。
「実は、組合に所属するお店のクレームが続いておりまして」
鈴木の話しによると、最初は小さいクレームだったらしい。従業員が客からの要望を受けた際に対応することが出来ず、怒らせてしまったとのことだ。それだけでいえば、“よくある話し”で済んでいたかもしれなかったが、その情報がSNSで拡散された。元々、大々的にプロモーションしていただけに、一度ついた種火は次第に大きくなっていったようだ。さらに、組合内の別店舗でも同様のクレームが数件起き、SNS内での評判が崩れてしまっているとのことだった。
「お客様から要望を伝えられた従業員はまだ新人で、マニュアル以外のことに対応できず、怒らせてしまったらしい」
「なるほど」
「ミスは起こってしかるべきなのですが、問題はSNSでの評判でして、中々火が収まらず」
「それで、私に何をしろと」
素直に話してしまえば、今の話を聞いたところで私が手を貸す必要はない。内容だけで言えばよくある話しであるし、組合内のトラブルであれば組合内の流れに沿って解決するべきだ。
「今回のことは組合として店舗の人手不足を補うために、研修を画一化したことが原因の一端であると思っています。そのため、前からお店にいた従業員もマニュアルがわからず、対応が遅れたのだと」
「そちらで起きた問題を、なぜ私に相談するの」
「そんなに邪見にしないであげてください」
桜井がゆっくりとした口調で話しかけてきた。クリームソーダはすでに飲み切った後だ。