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「すごい上品な人でしたね~」
美雪さんが桜井について、感想を漏らしていた。
「あの人、絶対に何かお店やってますよ!」
「わかったから、閉店の作業をしてちょうだい」
笑いながら美雪さんを諭す。桜井が纏う雰囲気は、やはり誰もが気取られるような類のものであった。何故かは分からなかったが彼女から受ける印象は、悪いものではなかった。しかし、鈴木からの連絡もなく連れてもいなかったところを見ると、本当に一人で組合のために私たちのお店へやってきたということになる。つまり、それだけ組合への思い入れが大きいということだ。
「それとも、鈴木へ、か」
どちらにせよ、私たちがやることは変わらない。組合と敵対するのではない。私たちは、お店を続けるのだ。お客様が選んでくれるお店を。
それからも変わらず、私たちはお店を続けた。ある日、お店の電話が鳴った。鈴木からだった。まだ、その声には慣れない。少し顔を曇らせながら受話器に向かうが、鈴木からの言葉は意外なものだった。
「すみません。組合関係なくお願いします。・・・助けていただけませんか」
鈴木の声は頼りなく、いつものような落ち着きもないように思えた。私は暫く、息をすることすら忘れていた。
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元婚約者・鈴木から詳細について説明したいと言われ、私たちは近くの喫茶店で待ち合わせることとなった。