結果は残酷だった。売り上げは如実に下がっていた。
「そんな・・・」
「お客さんの入り方とか評判は悪くなかったんですけどね」
美雪さんと久美さんが、売上が纏められた表を見ながら呟く。私も、ひたすらに詳細を見比べながら原因について考えていた。
はじめから読む：きっとこの先は。vol.1～この夜を迎えるまでは～
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自分たちなりに様々に考えて施策を練った期間だったが、数字には反映されていなかった。それに対して組合が出す報告では、如実に売り上げを伸ばしているとのことだ。つまり、これだけのことをやって、ようやく売り上げが少し下がるに留めることができたということだ。
「最近の組合の話題性すごいですもんね・・・。家にチラシも来てましたし！ネットで検索してもファミリー層、カップル、個人すべての層に受けそうな情報が盛りだくさんですし」
「元々、家族で気軽にってお店でもないけど、取られちゃってる感じはするわね」
その通りだ。目の前に表示されている数字の群れに眩暈がした。勝ち筋が見えない。いや、勝つ必要はないのだが。脳裏に鈴木の顔がチラつく。
「心変わりはありませんか」
屋号と従業員は守っていきたい。その思いは変わらない。しかし、私のプライドに従業員を巻き込んでしまっていることも、重々に自覚はしている。段々と気持ち悪くなってくる。酸欠のような状態。十分量の酸素が足りていないというよりも、何か別の空気のようなものが飽和して頭が圧迫されているような感覚だ。
「女将さん・・・」
皆の視線がジワジワと痛い。責めるような目線ではなく、私を心配する目線であることがわかる。私は、思わず席を立った。
◆
長良川の堤防を歩く。
この川に沿って立地する料亭間で静かな争いが起きている。私が勝手に争っているだけなのかもしれない。誰も望んでいないのかもしれないし、巻き込んでいるだけなのかもしれない。考えが自分のなかだけで回っている。こういう時は、あまり良い方向に考えが向かないものだ。
ただ、煮詰まったときは一度、水の音を聞きながら歩くようにしている。川べりで遊ぶ人、水面ではねる魚、川に向かって投げた石が4回跳ねたことを男の子が父親に報告している。何気ない風景を見ながら、頭を一度整理する必要があった。
「女将さん」
ふいに後ろから声をかけられた。板前の小柳君だ。お店から直接探しに来てくれたのだろう。白衣のまま走ってきたことがうかがえる。