「会場の方は大丈夫?」
総務の石井が確認をとった相手は三村佐智子だった。
「はい、確認しましたぁ」
創業記念パーティーの会場はマリオット・ホテルの16階。1,000人規模を収容できるタワーズホールルームだ。
数ヶ月前から予約を入れていたとはいえ、新社長就任とその後継となる桐生泰孝のお披露目を兼ねるとあって準備には余念がない。
先週末、自己都合で欠勤したと思われていた佐智子が実は社用で出張していたと聞かされたのは午前のミーティングでのことだ。
創業記念パーティーの作業確認をする会議で山村礼子は佐智子の姿を見かけたのだ。
「三村さん!あなた、ここで何をしているの!?」
各部から担当者が集まる会議室には30名ほどの社員が集まっていた。進行役の石井の傍らで準備を進めていた佐智子は視線を上げて微笑んだ。
「山村さん、お伝えしたじゃないですかぁ」
「・・何も聞いていないわよ」
「えー?先週の木曜日に社内メールもお送りしましたよぉ」
周囲がふたりのやりとりに気づいて注目し始める。
「ん?どうしたんだね」
石井が声を掛けた。
「山村さんにご報告していたんですけどぉ、伝わっていなかったみたいで」
「・・!!」
礼子の表情に憎悪にも似た感情が浮かぶ。
「おかしいな。三村さん、メールくれてたよね。僕にもCCで」
「はい!夕方にお送りしたファイルも、見てくださっていなかったみたいですし。礼子さん、メール確認しておられません?」
「そんなメール、来てないわよ!」
思いがけず出た声が会場に響き渡る。