「・・ファイルは木曜日の夕方にメールで届いていたそうです。石井部長が出張されていたので確認が今になったと・・」
礼子の言葉に周囲がざわめく。
「え、どういうことですか?」
聞こえよがしに声を上げたのは宮本百合子だった。
「山村さんの確認不足だったってことですか?」
川崎乃亜も好機とばかりに、礼子を責める言葉を続ける。
日頃から礼子に不満を抱いていた百合子と乃亜の魂胆なんて見え透いている。普段ならやり過ごせたはずが礼子は湧き上がる怒りを抑えきれず、声を上げた。
「私のせいじゃないわ。仕事の基本は報連相よ。三村さんがちゃんと報告しないから悪いんじゃないっ!」
ガッシャーン!
腹立ち紛れに礼子は手にしていたファイルを机の上に乱暴に叩きつける。
あまりの剣幕に他の課のメンバーも仕事の手を止めて礼子に視線を送る。
「・・とにかく無事、完成していてよかったですね」
野中ひとみが声を掛ける。
「そ、そうだよ。これで問題なしだ。さ、みんなも仕事に戻ろう」
城島が場を和まそうと、大げさな身振りで皆を促した。
外線のコールがフロアに響いた。
それを合図に皆、それぞれ自分の仕事に戻っていく。礼子だけが椅子に腰を下ろしたまま、両手を強く握りしめていた。
●張り巡らされた糸
10月第3週 月曜日。
「おはようございます」
週が明け、空は快晴だ。
株式会社スター・エレクトロニクスでは2週間後に迫った創業記念パーティーの準備に追われていた。