機嫌の悪い礼子は佐智子に無理な案件を押し付けて、自分は桐生とラウンジへ・・・?
(私だって・・・)
いつかのフレーズが心の中に木霊する。
前回:彼女がいても関係ない vol.4 ~脆く危い関係の進展~
●無理な案件
5階のフロア。会議を終えて礼子は自分の席に戻ったところに内線が鳴る。
「はい、山村です」
「あぁ、総務の石井だけど」
「石井部長。何でしょうか?」
「さっきの書類ね、追加があったからメールで送っておいたから」
「・・わかりました」
「じゃ、よろしく」
電話を切って、社内メールを確認すると確かに石井から添付ファイルが届いていた。持って帰ってきた資料はどうやら役に立たないものらしい。礼子は深呼吸するようにため息を吐くと、ファイルを開く。100件ほどのリストは倍の件数になっている。今週は月曜日が祝日だったから週末、金曜日までに取りまとめるとなると実質4日しかない。
国内外の取引先に改めて出欠確認を取るには単純計算しても1日に50件ずつ捌く必要がある。リストをプリントアウトしながら礼子はどうしたものか思案する。顔をあげて周囲を見渡すと斜め前の席にいる乃亜と一瞬、視線が合う。乃亜は気づかぬ振りで視線を逸らした。
先日の昼休み以後、乃亜は礼子に近づかない。触らぬ神に祟りなし、とでも思っているのだろう。どちらにしても乃亜には荷が重い。ひとみに任せるのが確実だろう。そう思ったとき電話に応対する声が耳に響いた。
「課長ぉ、大丈夫ですよ。ちゃんと仕上げておきますぅ」
週末まで韓国出張で不在の島坂からの外線のようだ。
「はぁい。お土産待ってま~す」
佐智子が電話を置いたのを見計らって礼子が声を掛ける。