「で、今は軌道に乗って忙しくしてるみたいだな」
「うん。一時期は休む暇もないくらい本当に忙しかったけど、やっと落ち着いたところ。腕のいいスタッフも雇ったしね」
軌道に乗った名古屋の店は、人に任せることにしたのだ。
ナルミの店へ客として訪れていた元ピラティス仲間で、ナルミが人を探していると知ると、自ら手を挙げてくれた。
問題は、彼女はピラティストレーナーとしては申し分ないが、エステの技術や経験はゼロだったこと。そのため、閉店後や定休日にナルミがつきっきりで指導した。指導にだいぶ時間を取られたものの、間に合わせのエステティシャンではナルミの思うサービスを提供することはできなかったかもしれない。むしろ、知識や経験を一からナルミ流に教え込む方が結果的には成功だった。
「私よりも人当たりいいし、安心して任せられる」
ナルミが心からそう言うと、神崎がまたもナルミを見直したように見つめてきた。
「自分の夢を聞いてくれって言ってた頃のナルミちゃんとは、ほんと見違えたな。しっかり経営者の顔してるよ」
率直な誉め言葉に、ナルミは少し照れてこの日二度目の「ありがとう」を言った。
「今は東京の2店舗目にいることがほとんどなの」
東京、と言うと、神崎はまた驚いたような顔をした。
どうやら、2店舗目の場所までは聞き及んでいなかったらしい。
「今東京に住んでんの? それは知らなかったな。繁盛してんの?」
「うん、有難いことに」
事実、東京の店は順調である。
リコのアドバイスの元、東京の店舗は客層をかなり狭めたのが正解だった。
『ナルミちゃんはね、その脚を使わないと勿体ないわよ。その美しい脚、単なる金持ち男どもの目の保養で終わらせていいの?』
『それでいいわけじゃないですけど、自分では絶対買わないような高い靴、送られてきますよ』
『そんなの自分で稼いだお金で自分で買った方がいいじゃない』
何事もストレートにモノを言うリコに、ナルミは『確かに』と頷いた。
リコのアドバイスはシンプルだった。ナルミの脚は東京で活躍するモデルやタレントでもそうそうお目にかかることが出来ないのだから、自分の脚を売り物にしなさいという1点のみ。
その言葉に、一年以上前に新幹線で乗り合わせた役者の男が同じことを言っていたのを思い出した。
ナルミは、自分の脚を神崎の方へ伸ばして見せた。
「ついに、この脚がお金を稼ぎだしたの」
「前からその脚で男に貢がせてただろ」
やや冷ややかに言う神崎に、ナルミは首を振って言い返した。
「もうそういうのはお断りするようにしたの。投資してもらった人には、今も月々きっちり返済してるし。ほら、今履いてるのだって、自分で買ったのよ」
つま先を上げて披露する。
ジミーチュウのブラックパンプスは、今までプレゼントされたどのパンプスよりもシンプルだが、その分ラインの美しさが際立ち、ナルミは気に入っていた。
「東京のサロンはね、私みたいな脚になりたいって、モデルや女優の卵の女の子に人気なのよ」
「なるほどね、ナルミちゃんの脚は特別だからな」