マリオットホテルのジーニス。
「いや、本当に立派な実業家になっちゃって」
窓際のソファ席にゆったりと腰かける神崎は、「お待たせしました」と現れたナルミを見て開口一番こう言った。
はじめから読む▶絶対美脚を持つ女 vol.1~夢を語る女~
「ありがとう」
とナルミは穏やかに微笑み返す。
久しぶりに合う神崎は、またも精悍さと貫禄が増していた。
「久しぶりよね、最後に会ったのは……2年以上前だっけ」
タイトなスカートを履いたナルミは、その脚を神崎に見せつけるようにして椅子へ腰かけた。
「もうそんなになるか。その間に2店舗目、出したんだって?」
どこで聞きつけたのか、今日はそれを報告しようと思っていたのに先手を越され、ナルミは苦笑いした。
「早耳ね、オープンしてもう半年くらいになるかな。おかげさまで、順調です」
軽い口調でおどけてみせると、神崎は感心したように腕を組んでナルミを眺めた。
「なによ、珍しいものでも見るように」
「いや。久しぶりに会ったからか、ナルミちゃんが別人に見える」
「神崎さんが私をナメてたのは知ってる」
ナルミが上目遣いで楽し気に睨んで見せると、神崎は参ったといわんばかりにわざとらしく手を挙げた。
「ナメてないけど、かわいい後輩ってのが、ずっと抜けなくてね」
その時、ナルミが頼んだシャンパンと、神崎のマッカランのロックが運ばれてきた。
テーブルに置かれた二つのグラス。まるで窓越しに名古屋の夜景の中に浮かんでいるようで、やけになまめかしく映る。
乾杯、と軽くグラスを合わせる。
「今日は私のおごり」
ナルミがシャンパンを一口流してから言った。
口の中で小さな泡が弾け、しゃっきりした飲み口が喉へ通っていく。実に美味しい。
「最初のお店を色々手伝ってくれたお礼、まだちゃんとしてなかったから。あの時は家賃の交渉から税務署の手続きまで、口だけでほとんど初心者だった私を色々助けてくれて、本当にありがとう」
「あぁ、そんなことあったな。別にいいのに」
神崎は控えめに笑いながら「でも、そういうことならありがたく」と言って軽くグラスを上げた。
ナルミは神崎のその言葉と仕草を見て、神崎のこういうところが好きだ、と思った。