ここまで言い切ると、ナルミはワインを口に含んだ。
「でもね、それにはやっぱり時間もお金もかかる。地道にやっていくのもいいけど、できるだけ早く広げたくて」
ナルミは首を傾げて歯医者を見つめた。脚を組み替えれば、歯医者がナルミの太ももへそっと手を乗せてきた。
「つまり、ナルミちゃんは僕に資金援助を頼んでる?」
歯医者はにやりと笑ってナルミを見た。愉快そうな表情は、余裕を感じさせる。
「資金援助というか、私に投資してほしいの」
利益を少し上乗せして返していくのであれば、ナルミの美学に反することはない。
1店舗目を開業する際に頑なに自分の貯めた資金でやろうと思ったのは、まだ成功する保証がなかったからだ。
今は多少のリスクを負って資金を調達しても、返していく自信がある。
「うん、なるほど」
歯医者はおかしそうにナルミを見た。
「お金貸してって言ってくれれば、いくらでも貸すのに」
「それは嫌なのよ」
「うん、そういうところがナルミちゃんいいね。うん、別にいいよ。投資してあげよう」
待ってました!と言わんばかりにナルミは弾けた笑顔を見せた。
Next:5月10日更新予定
名古屋に続き東京にもサロンを持ち繁盛店のオーナーとなったナルミは、二年ぶりにある人物に会うため、ホテルのスカイラウンジにやって来た。