オープンしたサロンの滑り出しは、上々だった。
新規の客でも単価1万円程度の設定と、新規オープンにしては少々強気の価格設定ではあったが、感度が高く多少値が張っても質の良いものを見分けられる名古屋女性にハマったらしい。
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プライベートレッスンとしてピラティスのみ受ける客もいれば、エステだけ頼む客もいる。どちらかだけを選択する客は大抵会社でバリバリ働いているキャリアウーマンで、そういう客は平日の夜か土日に予約を入れる。
だが、ナルミの店で一番人気なのは、エステとピラティスがセットになったメニューで、5回の回数券のコースで12万円。一回当たり2万4千円の計算になるが、これを選ぶのは医者や弁護士を夫に持つ若妻が多く、そういった客はむしろ平日の日中に予約を取ってくれるのでありがたかった。
名古屋ではまだナルミの持つサロンのような形態の店が少ないからか、開店数カ月にして、一カ月先まで予約が埋まってしまうほどの人気店となった。
「いや、なかなかの快挙だね、ナルミちゃん」
大将の握る寿司を前に、白ワインのグラスを傾けながら歯医者が称賛した。
ナルミも同じようにグラスを口に近づける。ナッツのようなシャルドネの香りが、鼻腔を刺激する。
今日はムルソーの2010年を、成功のお祝いに空けてくれた。
この半年でワイン会にたびたび参加するようになったナルミも、ムルソーはお気に入りのワインの一つだった。白ワインの割に色がこく、まるで上質なキャラメルを口に含んでいるような香りがいい。
「先生、ありがとう。先生がいろんな人に引き合わせてくれたおかげで、たくさん勉強できたの。自分でも正直ここまで順調に進むことができるなんて、思いもしなかった」
「それはナルミちゃんの努力の賜物だよ」
「特にリコさん」
「リコちゃんはあぁ見えて相当負けず嫌いだからね。成功者には負けず嫌いが多いんだよ」
ここで大将が握ったばかりのブリを簡単な説明とともに目の前に出してくれた。特製のタレをひと塗りしてあり、口に含むと、とろけるように消えていく。
「……美味しい」
思わず口に出して呟くと、大将が満足そうに頷き、歯医者も好々爺のように「ここの寿司は特別美味しいんだよ」と我が店のように自慢した。