シャワーを浴び終えた神崎がバスタオルで頭を拭きながら、エグゼクティブスイートの部屋を見回す。
「まさか。いつもは一部屋。名古屋のサロン覗いたり、会食して帰ったら大体いつも夜中だし、朝も早いしね。でも、今日はもしかしたら神崎さんが来るかもしれないから、特別にスイートにしておいたの」
長い夜に備えて部屋にワインを運んでもらった。
グラスに軽い飲み口の白ワインを注ぎ、神崎へと手渡す。
「なんかナルミちゃんが男前で調子狂うな」
言う割に特にこだわった様子もなく、ワインを一口あおって「うまい」と言う。
前のナルミなら、男からどれだけお金を使ってもらうか、どんなことを自分のためにしてくれるか、そんなことばかりに価値を置いていた。
寄ってくる男は大抵この脚を目当てにしていて、美脚しか誇れるものがなかったナルミはそれでもいいと思っていた時期もある。
だが、自分のしたい仕事をして、並みの男よりずっと稼げるようになった今では、欲しいものは自分で何でも買えるし、食べたいものがあれば、何の心配もなく誰にうかがうこともなくどこへでも食べに行ける。
そして今は、一緒にいたいと思える相手も手に入れた。
「やっと全部夢が叶った」
神崎の肩に頭を寄せながら、ナルミは充足感から微笑みを浮かべた。
―The End-