私と付き合って、というストレートなナルミのオファーに、神崎はすぐに頷かなかった。
「そりゃナルミちゃんがそんな風に思ってくれてたのは嬉しいけど、前は散々おれの誘いをかわしてただろ」
はじめから読む▶絶対美脚を持つ女 vol.1~夢を語る女~
2杯目のマッカランの氷をカチリと鳴らしながら、神崎は不思議そうに言った。
「だって、前は神崎さん、私自身じゃなくて、この脚にしか興味なかったじゃない」
「そうだっけ」
「そうよ、気が付くと目線はいつも下の方に向いてて」
わざとらしく脚を組み直してそう言うと、神崎はぷっと吹き出した。
「たしかに」
「その割に、見極めがどうとか言って、すぐに引いちゃうし。あの時は女の人に困ってなかったんでしょう」
ナルミの指摘に、神崎は悪びれる様子もなく「まぁね」と言った。
「今も困ってないかもしれないよ」
ナルミを試すような発言だったが、それについて、ナルミはもう何度も考え抜いていた。
「今と2年前じゃ全然違うわよ。あの時もし神崎さんとそういう関係になっていたら、きっと私、他の女性に埋もれて上手くいかなかった」
単なる雇われのインストラクターに過ぎず、地位もお金も持っていなかったあの頃。例え誰にも負けないこの美脚を持っていても、あの頃の自分では神崎にていよく扱われ振り回されていただろうと容易に想像がついた。だから先輩後輩の関係が心地よく、抜け出す気はなかったのだ。
「この2年で色んな人に引き合わせてもらって、なかには有名人や偉い社長さんやすごい人もたくさんいたけど……」
言葉を切ったその時、ジーニスの名物、ピアノの生演奏が流れ始めた。8時を過ぎたらしい。
「いたけど?」
「とにかく、今なら多分、神崎さんは私に夢中になるわよ」
「いや、いたけどなんだよ」