NOVEL

男の裏側 vol.5~飲み会での恐怖~

「ねえ、環ちゃん。急なんだけど、今日みんなで飲みにでもいかない?」

職場の図書館に出勤した時のこと。

出し抜けにそう言われた環は、「え」と声を上げた。

 


前回:男の裏側 vol.4~見えてきた裏の顔~

はじめから読む:男の裏側 vol.1~地獄の始まりは天国~

 

 

「あ、ごめんなさい。やっぱり新婚さんだし、帰りが遅くなるのはまずいかしら?」

誘ってくれたおおらかな先輩は明らかに悪気がない様子でそう言った。

 

確かに、いつも密はこちらが帰る時間にも厳しい……。ただ、今日はたまたま密の方も会議が入っているらしく、向こうの帰る時間自体が遅くなると聞いていた。

密は忙しい時は本当に忙しいから……。それにこちらも結婚してから全くと言っていい程羽目を外していない。第一、職場の飲み会だ。合コンだとか何だとかでもあるまいし別に参加するくらい良いだろう。

 

「いえ、今日は空いていますし、大丈夫です。是非参加させてください」

環は笑みを浮かべて了承した。これで今日の仕事にも張り合いが出るというものだ。

 

***

 

「それじゃ、改めて環ちゃんの結婚を祝して!」

「もう、それいいですよー!でも、ありがとうございます!」

朝に話をした職場の先輩が主となって音頭をとる。

 

 

仕事が終わると、みんなで職場近くの居酒屋に飲みに来た。二次会は隣接するカラオケ店へ行く予定で、環は久し振りにはしゃいでいた。

 

(うん、最近は……。友達とも疎遠になってたし。たまにはこういうのもいいよね)

 

皆、図書館によく顔を出していた密のことは知っている。あんな旦那さんがいて羨ましい、ともよく言われた。環は素直にありがとうございます、とはにかんだ。

 

「わ、綺麗なペンダントね。それ、もしかして旦那さんからのプレゼント?」

 

勤務中は流石に目立つと思って、鞄の中に入れておいたペンダント。先日密にプレゼントしてもらってから、ほぼ肌身離さず着けていた。シンプルな色合いではあるがきらびやかで目を引く。それを身に着けていると、同期の女性が声を掛けてきた。

 

「うん……。実はそうなの。実はこないだ喧嘩しちゃったんだけど、そのお詫びにって」

「えー、羨ましい!そんな高そうなペンダントくれるなんて、やっぱり旦那さんすごいのね」

嫌味な言い方ではなく心底羨ましがっている様子だったので、環は酒のせいもあって気分が良くなった。

「でも、最近環ちゃん、ちょっと疲れてるみたいだったから……。久し振りにいつもの環ちゃんを見れて嬉しいよ」

図書館勤務にしては少し珍しい、若い男性職員である中井がそう言った。

 

(あ、やっぱり私、ちょっと疲れてるように見えたんだ……。みんなに心配掛けたなら恥ずかしいな。でも、いい職場で本当に良かった)

環はそう思い、ちょっと安心する。

 

(あ、そういえば、密さんに連絡入れるの忘れてた!職場のみんなと飲みに行くから、帰るのが少し遅くなりますってメール入れるつもりだったのに。今からLINEをしなきゃ……)

 

そう思い、慌てて環がスマホを取り出したその時。

来店を告げる「いらっしゃいませ!」の威勢の良い声がし、その後でカツカツとこちらに近づく足音がした。