「え、小園さん!?すごい、ハイスペックじゃない!」
「そうそう、最近奥さんと別れたって噂よ」
間違いない。
環の体は小さく震えた。思わず聞き耳を立てると、その女性たちはきゃあきゃあと高い声で会話を続けた。
「奥さん、なんで小園さんみたいな人を手放しちゃったのかしら。……まあ、何にせよチャンスよね?小園さん、何だか気落ちしたみたいで。私に話し掛けてきたの。やっぱり離婚して寂しいのね」
「小園さんってやっぱり憧れだよねー……。いいじゃん、羨ましいなあ。私も狙っちゃおうかしら。年収1500万って話聞くし、取締役だし。それに、結構いいひとっぽいし、わりかし見た目もいいもんね?」
「そうそう。ロマンチックなデートにしてくれそう……。女の気持ちがよく分かってる感じするよね。他の男連中と違って」
あはは、と彼女たちが声を高くして笑い合うのが聞こえる。
しかし、環の心中は穏やかじゃなかった。
別れた奥さんとして馬鹿にされたとか、そういう風には全く思わなかった。ただ、密がやはりいつものように、対外的にいい人を装って、女の子を騙しているのだと改めて知ったことが衝撃だった。彼女たちのようにきっとみんなが騙されているのだ――。
そうだ。自分もこの間までそうだった。ああやって無邪気に、密の外面に騙されていたんだ。なんて馬鹿だったんだろう。
「私、小園さんと上手くいけたらいいなあ……。結婚するならやっぱり年収が高い人が嬉しいしね。それに、小園さんって紳士的だし」
デートに誘われたと話していた女性が、そんなことを夢見るように言う。
……もう、耐えられない!
環は席から立ち上がりトレイを下げに店内に入った。気分が悪かった。
彼女のことを、彼女たちのことを馬鹿に出来ない。そして、彼女のこれからの未来を思うと可哀想でならない。
きっと密はまた繰り返す。同じように支配できる女性を探しているに違いない。もしあの子と破局したとしても、次はまた別の人を――。
店の外に出ると、まだ三人はこちらを見向きもせずに話をしていた。環はその場から足早に去った。
騙されるみんなや、女性たちや、自分自身が、本当に哀れに思えた。
空を見上げる。
春の昼日中は本当に綺麗な青空で、そんな中暗い表情の環はいっそう際立って見えた。
―The End―
はじめから読む:男の裏側 vol.1~地獄の始まりは天国~