NOVEL

【新連載スタート】男の裏側 vol.1~地獄の始まりは天国~

密は他の人にはないものを持っていると思った。

それは例えば、彼はIT会社の取締役として働いているということや、デートの時のエスコートをスマートにこなしてくれるということでもあった。

素敵だな、と思う感情は日増しに強くなっていたため、環は二つ返事で付き合うことに決めた。環ははにかみながらも、笑顔で答えた。

 

「私で良ければ、是非」

 

――そう。これから、幸せな関係を育んでいくのだと、そう信じていた。

 

少なくとも、環は。

 

***

 

密に、他の女性の影がちらつく。

そう気づいたのは、比較的早い段階だった。

 

ある夜、高級なフレンチレストランでディナーを楽しんでいる時。会計の際、彼が財布を取り出した時に、ふわりと香水の匂いが漂った。

環が思わず顔を向けると、密の鞄の中に、女性もののハンカチが入っているのが見えた。白く、ふちにレースが付いていて、上品そうなデザインだった。

香水の匂いがそのハンカチから漂っていることが分かる。


「ん? どうしたの、環?」

 

支払い終わって振り返った密が、にこりと綺麗に微笑む。環もすぐに笑い返し、「何でもない」と答えた。密はスマートに環の腕を取り、行こうか、とエスカレーターまで向かった。

 

(でも、プレゼントかもしれない)

(密さんはモテる人だろうから、会社の女性に貰ったものかも)

(ああ、けどあれは女性が持つ物だった。もしかして浮気とか?)

(うん、有り得る……。でも密さんはあんなに誠実な行動を取ってくれてる。私に対してすごく優しくて、親切で……)

 

そんな考えがぐるぐると回って、その夜は眠れなかった。けど、思えばこの時が幸せの絶頂だったんだわ。

 

まさか、あんなことになるなんて……。

そう。あの人の『裏側』。それを全く知らなかった馬鹿な私は、まんまと地獄への扉を自ら開けることになってしまったんだわ……。

 

 

Next826日更新予定

ある日、デートで書店に行き結婚雑誌を手に取る環だが、密はばつが悪そうに視線を逸らす。その後、密は環に離婚調停中だと告げる。