(もしかして、神尾さんは私と付き合う気はないの……?)
2月になって一層冷え込んだ冬の寒さを、一人きりの部屋でストーブに当たりながらしのいでいると、どうにも思考がふさぎ込みがちになる。名古屋の冬は底冷えするのだ。
テレビには、新しく始まった冬のドラマがつけっぱなしになっている。真剣に見ているわけではないが、物音のない部屋に一人きりで過ごすのがイヤで、家にいる時はつけっぱなしだ。
(なんか、疲れたな……)
テーブルの上には、焼きそばのカップ麺。普段はインスタント食品をなるべく食べないようにしているのに、なんだか無性に食べたくなってコンビニで買ったが、満足するどころか、虚しさが増しただけだ。
いよいよ気持ちが最下層まで落ちようかという時、着信が鳴った。
反射的に携帯に手を伸ばす。
神尾だ。
「もしもしっ」
「あ、アユミちゃん? おつかれー。電話していい?ってライン来てたから、電話してみたけど。あま木って?」
「あ、そう、そうなの」
久しぶりに聞くプライベートの神尾の声に、アユミは涙ぐみそうになったが、単に今この瞬間が寂しかっただけかもしれない。神尾の電話口からは、ガヤガヤと人込みの雑多な音が聞こえてくる。まだ帰宅してないんだろうか。今日は直帰と会社のスケジュールに書いてあったはずなのに。
「前に話してたリサっていう友達がね」
「あのセレブの?」
「そうそう、久屋のあま木っていうお寿司屋さんの予約があるから一緒にどう?って……あの、急だけど、もし土曜空いてたら、どう……かなって」
神尾のアユミに対する真意が分からず、尻すぼみになって尋ねると、
「それ、絶対行く」
と神尾が即答した。
「あ、いいの? 予定とか」
「大丈夫、アユミちゃんのお誘いが最優先。すげー嬉しい、ありがとう」
「ほんと? じゃあ、返事しておくね、詳細もすぐ連絡する!」