一瞬で解る、耳をくすぐるセクシーな声。
昭人だ!!
サロンの登録をしてくれたのを知って、連絡しました。という内容だった。
莉子は、我ながら自分らしくないと思いながらも、直ぐにリダイヤルしていた。
コール音を聞きながら、この時間なら自宅かもしれない。
つまりは、小枝子がいるかもしれない!
しかも、直ぐに折り返している自分は、安っぽい女にみられるかもしれない。
そんな不安を抱えながらも、着信を残して切る事は出来なかった。
ホームパーティーの日は朝まで小枝子に付き合い、リビングで寝てしまい、二人とも起きたのは、朝の10時で昭人はすでに仕事に出かけていた。
挨拶も出来ないままだった。
―私らしくない…コール音と共にドキドキが止まらない。-
指が震える。
唇を噛みしめている。
その時だった。
「もしもし…」
さっきの留守録より、優しい声。
「あのう、莉子です。お電話をいただいたようで…。」
「良かった。ごめんね…直接電話なんてして。」
小枝子の前とは明らかに違う話口調だった。
昭人は、サロンはあくまでも顧客開拓への道だから、妻の親友には申し訳ないから、もっとしっかりとしたアドバイスを個人でさせて欲しいという提案だった。
しかし莉子は、その申し出に二つ返事ではOKはしない。
あくまでも、それをビジネスにしているのだから、知り合いだからといって、無償というのは受けられない。だから、個人アドバイザーとしてなら、お幾らですか?
莉子は、なるべく仕事が出来る女モードで返答した。
本当は、すぐにでも二人で会いたいと言い出したい。
でもここは、まず、ビジネスとしての関係を…
その瞬間だった。
電話越しではあったが、「フッ…」っと、息の漏れる音が聞こえた。
溜息ではない。
莉子には、あの口元の左側が引きあがる昭人が想像できた。
「じゃあ、個人アドバイザーになるにしても、一度会いませんか?仕事として…ね?」
互いの意向が合致していたのは、明白だった。
場所と日程を簡単に決めて、電話を切り、莉子は大きなため息をつく。
「…なんだ、思っていたより…簡単だったなぁ。」
仕事を振る。
仕事を依頼する。
そんな理由を翳して、実際会ったら…
なんてことはザラだし、莉子もよく仕掛ける上等手段だった。
でも…
会いたい。
小枝子に邪魔されながらの会食ではなく、小枝子からのくだらない先入観だらけの情報ではなく、莉子の目であの唇に問いかけたい。
「あなたの、本当の姿は…?」
くだらないことに、感情を揺らされるのが、きっと『恋』なのだ。
だから、これが『恋』なのだ。
一目惚れなんて簡単な言葉では相称できない。
数ある男の仕草、口元を見続けてきた統計の上で、導き出した情熱。
今までの男達の、此処は良いと思えた全てが詰まっている理想的な男。
ならば、杓子定規でも構わないかぁ…。