NOVEL

悪女 ~ Movement of the mouth ~ vol.2

 

 

莉子から『ジロウ』に連絡を取ることはない。

大体は「今日の午後から空いてる?」と連絡が来るくらいだ。

 

しかも相手は坊主だ。

帰るのも早い。22時には皆帰る。

そうしないと、翌朝のお勤めがきついとよく言っていた。

 

だからおかしい。

こんな時間に?

 

しかも、LINEと電話番号を交換したが、LINEでしか連絡がきたことがないのに?

 

莉子は出るか迷いつつも、莉子にとっては【小銭でも塵も積もれば】と思い、切らずにいた『ジロウ』からの電話に出た。

 

「もしもし?」

「・・・・・」

「あれ?どう・・・」

 

「主人がいつも、お世話になっております。」

 

聞き覚えなんてあるはずもない、ちょっとしわがれた女性の淡々とした声が響いてきた。

 

莉子は直ぐに電話を切り、何も考えずにその電話番号を着信拒否した。

 

『なんなのよ…ルール違反でしょ…』

 

 


 

 

腸が煮えかえるとは、こういうことを言うのだろうか?

肉体関係を持ったことがある相手ならば、まだ自分の非を反省することも出来たのかもしれない。

しかし、相手は小銭箱程度の相手で、ネタを提供してくるからと時間を割いていただけで、莉子のパートナーでも何でもない。ネイルチップ程度の存在だ。

その、妻から連絡があるなんて、ルール違反も甚だしいと感じた。

 

莉子は、怒り任せにLINEを開けてブロックしてから全てを削除した。

 

色んな男性と関係を持ってきて、初めての事だった。

 

「何なのよ!!もう!!」

 

顔にパックをしたまま大きく口を動かしたため、パックが突っ張る。

何もかもが面倒になり、パックを乱暴に剥がしてゴミ箱にぶち込み、莉子は動物園の檻の中のライオンのように、広いリビングを何度も往復して、我ながら驚くような奇声を発していた。

 

夢中にさせるのも、フェイドアウトして消えさせるのも、莉子は得意だ。

 

なのに、予想外な事が、連続で起こったことにいら立ちが隠せない。

小枝子の結婚の次は、『ジロウ』の妻からの連絡?

 

ふざけるな。

ふざけるな!!

 

大した金額も払えない癖に、多くを求めてくる低俗な男には虫唾が走る。

挙句、その妻が私に連絡してくる?

 

一体何に腹を立てたらいいのか解らなかったし、この怒りは誰とも共有できない事も解っていた。

 

マンションを買ってくれた男も、ネイリストとしての立場を設けてくれた男にも家庭があった。

 

そんな話はした事もされた事もなかったし、指輪はしていなかったが、左薬指にわずかな跡があった。

互いのプライベートに深入りはしない。

いい女でいた莉子に、相手もそれなりの対応をしてくれた。

ただ、フェイドアウトをした理由は利用価値の問題だ。