NOVEL

妻のトリセツ vol.4 ~息子の本音~

 

「本当は、あんまり剣道って得意じゃないんだ。どうしても上手く出来なくって……。だから、通うのがちょっと辛い。みんなと仲はいいから、まだ行けるけど……」とか、

 

「塾も苦手。勉強が出来ないとかじゃないんだけど、忙しなくって。勉強するの自体が嫌なわけじゃないから、どっちかって言うと、家で自分のペースでやりたいな……」とか。

 

そこで初めて加奈恵は、春樹のことを知ることが出来た。

自分の息子なのに、これまであまり本当のことを知らなかったというのは、辛い真実だった。

 

「ねえ、お母さん。本当に大丈夫? お母さんが、お父さんに叱られないの?」

 そんなことを子供に心配させているのも辛くて、加奈恵はそっと、横になっている春樹の額を撫でた。

 

「心配しなくて大丈夫よ。お父さんもちゃんと分かってくれるわ。それに、お母さんは強いんだから」

 じきに眠ってしまった春樹をそっと置いて、加奈恵はコップの水を取り替えようと、廊下に出た。

 

***

 

帰ってきた裕司は、この様子を見るなり癇癪を起こしたように怒った。

 

 

「帰った家主におかえりなさいも言わないで、子どもが習い事を休んで寝ているとはどういうことだ!」

 「あなた、春樹は熱があるのよ。調子が悪い時くらい、休んだっていいじゃない。第一春樹はこれまで休むこともなく習い事に行って……」

 

「うるさい! お前の監督不行き届きがいけないんだ! 今からでもきちんと行け!」

 「そんな、無茶苦茶だわ」

 

結局この日、春樹はきちんと休ませることを約束させたものの、その代わり加奈恵は裕司に土下座までさせられることになった。

 

 ……結局、春樹に言った『裕司は怒らない』『加奈恵は強いんだから大丈夫』という言葉は、嘘になってしまった。それが心苦しかった。

 

 そして、のちに中学生になった春樹の心を大きくえぐる、つらい出来事が起ころうとしていた……。

 

 

next:1月25日更新予定

あることをきっかけに中学生になった一人息子・春樹の夫・裕司に対する態度が変わっていく・・・?