***
そして、それから一週間後のある日。
いつも通り学校から帰ってきた春樹だったが、少し具合が悪そうだ。
動きは緩慢だし、よく見ると頬に赤みが差しているように思える。
「春樹……。大丈夫? もしかして、熱があるんじゃない?」
心配した加奈恵が訊ねても、春樹は「平気だよ」と言って取り合わない。
「ダメよ、もし熱があるんだったら、ちゃんと休まないと……」
すると、みるみる春樹の表情が曇った。
「い、嫌だよ、休むのは。お父さんに怒られちゃう」
「…………!」
その時の春樹の言葉に、加奈恵はひどくショックを受けた。
しかし、春樹は続ける。
「それに、お母さんもきっと怒られるよ。僕、僕のせいでお母さんが怒られるの、嫌だよ……」
俯いて泣きそうな顔をする春樹を見て、思わず加奈恵は春樹をぎゅっと抱き締めた。
こんなに春樹のことを可哀想に思ったのは初めてだった。
以前春樹にからあげやご飯を作ってあげていた時は、春樹はてっきり元気に塾や剣道に向かっているものだと思い込んでいた。
でも、本当は違ったのだ。春樹は父親に怒られないために、母親が父親に当たられないために通っていたのだ。
それが何より辛かった。
「……春樹。今日は休みましょう」
「えっ。だ、駄目だよ。僕は大丈夫だから。だって、お父さんが……」
「いいの。お父さんには私から言っておくから。ね? 体調が良くない時くらい、ちゃんと休まなきゃ」
「でも……」
春樹はそれでも渋っていたが、加奈恵が手で春樹の額を触ってみると、やっぱり微熱があるようだった。
風邪か、疲れから来ているものだろう。
「春樹、パジャマに着替えてらっしゃい。今日はゆっくりしていていいのよ。ベッドで横になって」
***
自分の部屋のベッドに横になった春樹は、ぽつりぽつりと、加奈恵に本音を話してくれた。