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酒と人を誘う、罪な一皿。「てんぷら玉好」前編

「この店の、この料理がうまいんだ」。お気に入りの店が増えれば増えるほど、そういう言葉を発する機会も多くなる。できれば自分だけの秘密にしておきたい、けれどそんな一皿ほど教えたい。この、罪な現象は一体なんなのだろうか。

 

そしてそういうものは得てして、ある種の“意外性”を兼ね備えていることが多いように思う。『てんぷら玉好』でいただけるあの一皿も然り。天ぷらがうまいのは言わずもがなだが、ここで食べるべき至極の一皿は、コースのシメに登場するアレだ。

 

意中の相手との距離を縮めたい瞬間や、重要なビジネスパーソンとの接待。

大切な付き合いがある夜には、この店で食べるシメの一皿は欠かせない。

 老舗の三代目が手掛けるこだわりの天ぷら

北には徳川美術館、西には名刹・建中寺と、尾張徳川の歴史をそこはかとなく感じる街並みの一角に『てんぷら玉好』はある。住宅の並びになじむように店を構えているため、ぽっと灯る「てんぷら」の看板を見過ごさないように訪れよう。

 

 

同店は、3年ほど前に県内三河地区の知立(ちりゅう)市からこの地に移転。

なぜこの場所に、と主の都築宗孝氏に問えば、

「このあたりはもともと父親の地元だったのですが、知立駅前の再開発を機に名古屋への出店を思案していて、何気なくこの場所を訪れました。すると偶然、年に一度6月に行われる天王祭が催されていたんです。この場所にどこか運命的なものを感じて、すぐに契約しました」

と教えてくれる。

 

 

大将の、この気さくな雰囲気が好きで訪れる客は多い。

店内がカウンターのみであるのも、気兼ねなく対話を楽しみながら食事をしてほしい、という氏のこだわりが現れている。ちなみに、このカウンターの一枚板は自身で調達したのだというから驚きだ。

 

「てんぷら玉好」の起源は今から三代前にさかのぼる。かつては芸妓の置屋だった建物で、氏の祖母が料亭を営み始めたことがきっかけだ。

店の名前も、祖母の芸名が「玉千代」であったことから、「玉千代が大勢の人から末永く好かれるように」という思いを込めて、馴染み客がつけてくれたのだそうだ。

 

都築氏自身は、大阪の専門学校を卒業後、かの名店『なだ万』へ入社。東京のニューオータニ店で勤めたあと、同名古屋店への異動が決まる。これが自身にとっての転機となった。

その際、餞にと上司に食べさせてもらった『なだ万』の天ぷらの、あまりのおいしさに衝撃を受けたのだ。天ぷらの調理場を仕切る松井雅夫氏に頼み込み、その極意を学ぶことに。その技をもって名古屋店を勤めあげ、家業を継ぐために知立に戻ったのは25歳のとき。実家の『玉好』に天ぷらカウンターを設置し、『料亭 江戸前天麩羅 玉好』に改名した。

 

 

片手を腰に当てる、調理スタイル。師匠である松井氏の名残だ。

教えのとおり、打ち粉はほぼせず、素材に衣を直に付ける。揚げ油に使うのは、健康に気遣う都築氏自身がこだわって選んだ、体にやさしい一級品の太白胡麻油だ。

そうして出来上がった天ぷらは、ネタにしっかりと火が入っているのに油のキレがよく、くどくないと、常連からも評判だ。

 

自慢の天ぷらをコースでたっぷりと堪能したあとは、いよいよ「あの一皿」とのご対面。

 

独特な香りと湯気が漂い始めたら、そのときももうすぐだ。

 

次回:9月15日更新予定

<後編へ続く>

 

店舗情報

店名 てんぷら玉好
営業時間

11:30~14:00 18:00~22:00

通常営業の場合
定休日

不定休

予約・お問い合せ

052-932-3170

住所
〒4610003 
愛知県名古屋市東区筒井1-2-45
座席数

8席(カウンター8席)

クレジットカード

利用可(VISA、Master、JCB、AMEX、Diners)

アクセス

桜通線車道駅1番出口を出て桜通車道交差点を北に右折 建中寺東交差点を越え、東海高校正門手前 徒歩約8分

車道駅から622m

駐車場

有(2台)

公式サイトURL
http://tmys.jp/reserve.html

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