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侘び寂びを粋に嗜む。「御懐石 志ら玉」<前編>

 

ステイタスもあり、交友範囲も広がってくると、それなりの“素養”が必要とされる場面にも遭遇する。

それは芸術や文化、そして食事にも。伝統と格式を重んじ、そこに深みをかみ分けられるようになれば、

名古屋で“大人”になれるのかもしれない。

 

 

静謐な茶庭を臨み、茶室へ

 

 

茶懐石を楽しむべく、名古屋市北区の老舗料亭「志ら玉」の暖簾をくぐる。

広々とした土間に一歩足を踏み入れると、自然と心が安らぐのを感じる。

江戸時代の風情が残る亭内は、まるで時の流れが止まっているかのように静かだ。

風流で雅な設えに囲まれていれば、悠久の名古屋の歴史にじっくりと浸ることができる。

 

 

 

 

 

 

食事は、昼は4コースから、夜は3コースから選べる。

いつ訪れても、素材の「はしり・旬・名残」を感じられる料理ばかりだ。

家族の記念日や大切な人との会合にはもちろん、法事や結納など人生の節目にも訪れたい、

言わずと知れた名古屋の名店である。

 

今回楽しむ「茶懐石」について少々補足をしたい。

安土桃山時代に千利休が大成した茶の湯において、

抹茶を濃く練った「濃茶」をいただく前に、空腹を満たすための食事を摂ることが決まりとされている。

これを懐石と呼び、茶席では主人から一汁三菜が供される。

客は主人のもてなしを受けながら、主人の心遣いや、この日のために作り上げた空間を堪能する。

 

流派などにより多少の異なりはあるが、

客は茶室に入る前に「寄付」で過ごし、合図があったら庭を通って茶室へ。

蹲(つくばい)で口や手を清めたら、にじり口と呼ばれる小さな入り口から入る。

 

 

 

 

 

 

雨がそぼ降る庭もまた一興。しとしとという雨音が、不思議と煩わしくない。

言いようのない簡素な中にある美しさ、儚さ。

これを「侘び寂び」というのであろうが、この日本語に相当する英単語がないのがうなずける。

これは説明するものではない。あくまで、感じるものなのだ。

 

 

 

 

 

この、独特の緊張感と静穏さが、実に心地よい。背筋をしゃんと伸ばし、主人の入席を待つと、音もなく襖が開いた。

 

 

御懐石 志ら玉

名古屋市北区上飯田西町2-36

052-981-6868

11:3015:0017:0022:00

不定休

https://www.siratama.jp/jp/index.html

 

 

<後編へ続く>