GOURMET

侘び寂びを粋に嗜む。「御懐石 志ら玉」<後編>

 

侘び寂びを粋に嗜む。「御懐石 志ら玉」<前編>

和の真髄に見るもてなしの心、その膳

とかく現代人は、飾り過ぎているのかもしれない。必要なものは、この膳のように、意外とシンプルなのだ。

飯と味噌汁、向付(むこうづけ)には鯛の昆布締め。

まずはこの無駄のない配置と、今日のために用意された器を愛でる。

向付の器は安土桃山時代に焼かれた織部焼だ。

その形状の豪快さとユニークさ、そして繊細な釉薬の色合いは、見ているだけで心を和ませてくれる。

飯碗と汁碗は、名匠・中村宗哲が手掛けた漆塗り。愛らしく艶やかなその様は、月並みではあるがただただ“美しい”。

 

 

 

 

その飯碗を手にとり、ひと口いただく。実に、甘い。

米は魚沼産コシヒカリを使用し、絶妙な水加減と火加減で、まろやかに炊き上げられている。

味噌汁は名古屋らしく、八丁味噌。なすや茗荷などの秋の味覚を添えた、焼き味噌仕立てだ。

酒が供されたら、向付をいただこう。

もちもちとした鯛の身に昆布の旨味がよく染み、酒も否応なしにすすむ。

間違いない、この飾らない心地に、体中が満たされていくのがわかる。

 

 

『志ら玉』の味は、料理長の武藤幸弘氏に委ねられる。

16歳で店に入り、この道一筋36年にもなるひとかどの料理人だ。

茶懐石において最も大切なのは、タイミング。

「茶席の流れを崩さないこと、そしてその時に一番いい状態でお料理を出すこと。これに尽きます」と話す。

客の様子を雰囲気や音、気配で感じ取り、膳を出す。

その流れ次第で、もてなしが決まると言っても過言ではない。

客が料理を口に運び、その日の茶懐石に満足して店を後にする。そこまでが、武藤氏の仕事なのだ。

 

 

 

 

そしてやはりこの日も、満足してこの店を出る。

言いようのない充足感に心をふわつかせながら。

侘び寂びや和の真髄、飾り立てない極意を粋に嗜む。

やはりそれは、説明して理解するものではない。それは野暮というものだ。

このことがわかっただけでも、名古屋で一端の“大人”になれた気がする。

 

 

 

御懐石 志ら玉

名古屋市北区上飯田西町2-36

052-981-6868

11:3015:0017:0022:00

不定休

https://www.siratama.jp/jp/index.html