GOURMET

“未完”の美。「サロン イナシュヴェ」 <前編>

かの有名な彫刻家、オーギュスト・ロダンは言った。

“最も美しい主題は君たちの前にある。なぜといえば、それらのものこそ君たちが一番よく知っているからである”、と。

目の間に対峙しているもの。取り組むべき出来事。どんなに悩もうとも、手を焼こうとも、それについて一番よくわかっているのは、自分自身なのだ。

 

そう言ったロダンだが、彼自身は生涯を通じて取り組んだ大作『地獄の門』の完成を待たずに死去。目の前にあるものが自分のよく知っているもので、その価値も必要性もわかっていながら、苦悩し続けた末、それは未完に終わったのだ。

 

だが、そこにこそ美しさを感じてしまうのは、なぜだろうか。

未完の美、という概念は、日本の禅の思想や茶道の侘び寂びにも通ずる部分があると思うのだが……ここでは割愛させていただくとして。

 

同じく“未完”の名を冠したあの名店へ、行ってみたくなった。

料理と空間を独占できる、プライベートなサロン

名古屋市東区泉にある「サロン イナシュヴェ」の扉を開ける。「サロン」と名乗るように、このプライベートな空間で気負わずに料理を楽しんでほしいというシェフの思いがあり、扉の前には看板もない。

 


たっぷりと外光が入る、洗練された空間。だが不思議と、緊張感はどこにもない。

一枚板のナチュラルなテーブルは欧米の食卓を連想させるし、店内には子ども用の椅子やシルバーも用意されている。さらに、11組限定という点も、プライベート感をより高めてくれている要因のひとつに違いない。

誰にも邪魔されずに、限りなくカジュアルな雰囲気で、さながら友人の家に招かれたような心地がする。

 

光に包まれたこの雰囲気もいいが、夜になるとぐっと照明の落ちた、しっとりとしたムードを纏うようになる。同じ店とは思えないほどのこの二面性が、たまらないのだ。

 

親しみを込めて、あえて“ホスト”という言い方をしようか。このサロンのホストである彼がオープンキッチンに立つことで、この空間に自然と温度が生まれる。

「ホテルニューオータニ大阪」から始まった、酒井淳氏のフランス料理人としての修行人生。「ハウステンボスホテルズ」においては、上柿元勝氏の指揮下で、世界各国の要人をもてなす迎賓館をはじめ全てのホテルで腕をふるった。

その後も、さまざまなレストランで料理長を歴任した彼だが、それだけにとどまらず、フードディレクターとしてさまざまなレストランのプロデュースや食育事業にも注力するように。この地に自身の店を構えたのは20159月のことだ。

さらにその2年後にはバル風の店「ラ クロワゼ」を、そして2021年にはミッドランド内に「ビストロ イナシュヴェ」をそれぞれオープンさせた。

 

一般の人向けに料理教室も開く傍ら、東京の料理人たちとのコラボレーションディナーを開催するなど、外部との刺激も積極的に受けている。

 

多方面で活躍する酒井氏だが、あくまで求めるところはずっと高く、遠い。「料理はおいしくて当然、料理人は期待されて当然なんです。その前提のもと、お越しくださるお客様の予想を超えるようなものを提供できるように心がけています」と、さらりと話す。

 

ストイックでありながら、そのような様子をおくびにも見せない。

そんな彼のスペシャリテが、楽しみにならないわけがないだろう。

 

 

<後編へ続く>

7月21日更新予定

“未完”の美。「サロン イナシュヴェ」 <後編>

 

 

店舗情報

店名 salon inacheve(サロン イナシュヴェ)
営業時間
17:00~翌2:00
※お時間はその日によって変動いたします。
詳しくは店舗までお問い合わせください。
定休日

不定休日あり

電話番号

050-5493-1045

住所 〒461-0001
名古屋市東区泉2丁目1-28
ヴィアーレ・ストリア 2F 鹿の角
座席数

12席

クレジットカード

JCB

アクセス
地下鉄桜通線 高岳駅 徒歩6分
地下鉄桜通線 久屋大通駅 徒歩12分
URL
https://salon-inacheve.com/

新型コロナウイルス感染拡大等により、営業時間・定休日が記載と異なる場合がございます。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。