WEDDING

ちょっと気になる世界のウェディング事情【アラブ編】

国によってさまざまな伝統や風習がある結婚式。第4回の前回は、明るくて陽気な南米の結婚式を紹介しました。今回はピラミッドやスフィンクスで有名なエジプトと、中東初のサッカーワールドカップ開催国・カタールの結婚式をご紹介します。また、併せて世界の婚姻制度についても見ていきましょう。私たちが住む日本とは違った制度が世界には溢れているようです。 

エジプト

男性は気に入った女性がいたら、その女性の父親に結婚の申し込みをします。父親はすぐに返事をせず、1週間程度保留に。この1週間を使って、男性の家柄や学歴、評判、経済力などの情報を集めるのです。相手の職場や自宅近所に聞き込みなどもするようです。男性の素性が許せるものであれば、ファーティハ式といって、結婚の約束を神様に誓う儀式を行います。この式には両家の父親、叔父、兄など男性が出席。その後、婚約式が行われます。婚約式といっても、家族公認のお付き合いといった程度のもの。それから正式に結婚が決まれば、結婚契約式に進みます。マーズーンと呼ばれる婚姻公証人立ち合いのもと、新郎、新婦の父か叔父、2人の証人が集まり書類を作成し、サインします。これで正式に夫婦となるようですが、エジプトでは披露宴が終わっていない限り二人で住むことはできません。二人きりで出かけることはできても、姉妹などが付き添う場合も多々あるようです。

金曜日が休みのエジプトの披露宴は、木曜日に行われることがほとんど。ダンス好きなエジプト人の結婚式はダンスがメイン。夜に始まるので終了は夜中でその間、プロの楽団が音楽を奏で、料理を堪能しつつダンスを楽しむようです。

男性は結婚するために、「マルフ」と言われる婚資や「ジャブカ」と言われる貴金属の贈り物を女性に渡します。マルフには「前後」があり、前は結婚前に払うもの、後は離婚した場合に払うものだそう。また、両親と同居というケースはほぼないため、新居を用意する必要も。それにあわせて、ベッドや応接セットなどの大型家具も準備しなければなりません。このように男性側は結婚するのに多額の資金が必要になるようです。結婚費用をためるまでに長い年月がかかるのはもちろん、副業したり、産油国へ出稼ぎに行ったりする男性も多いとか。女性側は食器や調理器具、リネン類、婚約式の費用、その他家財道具のための費用(男性からもらうマルフと同額)を負担します。新婦の家族は、花婿候補がきまる何年も前から少しずつ用意するようです。新婦が用意した持参品は、結婚後も妻の個人財産とみなされ、夫は勝手に処分することはできません。また、誤って壊してしまった場合は、同程度の金額で弁償します。なんとなく男性の肩身が狭いような気もしますが、女性の権利が保護されているともいえるでしょう。 

カタール

カタールの披露宴は、新郎新婦(男女)別で行われます。週末は家族での外出や、親戚同士集まることが多いので式が行われるのは平日がほとんど。ここで試されるのが父親の人脈だそう。親戚はもちろん、職場の同僚や、SNSを通じて人を招待することも。王族や大臣といった身分の高い人にまでダメもとで招待状を送ることもあるようです。

新郎側の披露宴は当日、会場に入ったゲストは新郎とその父、叔父と挨拶をかわし、その後、新郎と一緒に写真を撮ります。写真は記念として撮るのはもちろん、新聞の結婚式コーナーへの掲載が目的でもあるようです。撮影を終えると、椅子に座ってコーヒーや紅茶を飲み、他のゲストと話して10分程度たったら再度新郎と父、叔父に挨拶して退席するといった流れです。顔を合わせてお祝いの言葉を伝えるといった行為が重要で、ご祝儀もなく手ぶらが当たり前。しかも普段着でもOKなようです。式が行われている間、テントの前で昔ながらの伝統的なダンスが披露され、その輪の中にゲストも入って盛り上げます。披露宴の締めに、新郎を中心とした剣舞を披露し、親族に見送られ新婦の待つ女性のみの披露宴会場へと向かいます。

一方、女性のみの会場では、入口に女性の警備員がいて持ち物検査などが行われるようです。また、スマホやカメラの持ち込みは禁止のため、入口で係員に預けます。会場内では、ゲストが中央に用意されたステージで、普段は見せることがないような豪華な衣装を披露するように練り歩くとか。

世界の結婚制度

世界の結婚式の風習を知ったところで、ここからは結婚の制度についてみていきましょう。はじめに、私たちが暮らす日本では婚姻の成立に法律上の手続を要求する「法律婚主義」を採用しているため、戸籍法に基づく届出が必要です。また、一夫一婦制を採用し、重婚は禁止。日本国憲法第241項では「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」となっています。男性は18歳以上、女性は16歳以上で婚姻関係を結べます。ただし、未成年者の場合は父母の同意を得なければなりません。離婚後、女性が再婚する場合は生まれた子どもの父親が不明にならないよう、前婚の解消または取消しの日から100日間は再婚禁止期間になっています。他にも、いくつか細かく制度があるようですが基本的な制度としては前述したようなものです。それでは、世界に目を向けてみましょう。日本との違いにきっと驚くはずです。 

【フランス】

フランスには同棲以上結婚未満の「PACS」という制度があります。この契約を結ぶと、既婚者と同じ社会保障を受けることができます。結婚の手続きが大変なフランスでは、比較的簡単な手続きで済むPACSが人気のようです。 

【フィリピン・バチカン市国】

キリスト教信仰が厚く法律にも影響しているフィリピンやバチカン市国では、中絶や離婚といった教義に背くような行為は違法とされています。そのため、一度結婚したら離婚することはできません。代わりにあるのが、「Annulment(アヌルメント)」という制度。この制度は離婚ではなく、婚姻そのものをなかったことにするものですが、弁護士費用はフィリピン人の2年~4年分の給料相当、裁判機関の平均は3年~5年と、膨大な時間と費用が掛かります。また、アヌルメントには根拠の提示が必要です。その根拠とは「心理的無能力」「詐欺」「脅迫、または不当な影響力によって得られた婚姻の同意」「婚姻を成立させることができない身体的能力」「重篤な性感染症」です。 

【スウェーデン】

スウェーデンには「サムボ」と呼ばれる、日本でいう事実婚のような制度があります。国のサポートは結婚と変わりないため、サムボ婚を経てから正式に結婚するカップルも多いようです。その結果、離婚率が下がるという結果に。 

【アメリカ】

結婚制度は州によってさまざま。多くの州では18歳で結婚することができます。また、自分たちで新しく姓を作ることもできるようで、同姓・別姓も自由選択可能。また、アメリカは男性の失業が多いことから、2組に1組が離婚するといわれている離婚大国。離婚は、1年間ほどの別居期間を経ることで成立します。他にも、一方的に離婚ができる「無責離婚法」が制定されています。このように簡単に離婚できてしまう理由も、離婚率を高めた原因といえるでしょう。 

【カナダ】

カナダには「コモンロー」という制度があります。コモンローとは、1年以上結婚生活同様の生活をしている(同じ家に住んでいる・共同口座がある)ことや、パートナーとの間に子供がいるといった日本でいう事実婚のようなもの。法律的に認められている制度であり、結婚同様の福利厚生が受けられます。 

【中国南部(モソ族)】

モソ族は人口約5万人の中国に残る最後の母系社会の民族です。女性が家庭内で高い地位を持ち、生活において一定の発言権を持っています。そんなモソ族の結婚事情はというと「走婚(通い婚)」。これは、結婚しても仕事や生活で関わることはほとんどなく、伝統的に夫婦で家庭を形成しません。つまり、生涯自分の母親や、兄弟姉妹と一緒に暮らすのです。走婚が家族に認められれば、男性は夕方になると女性の家に行き、女性は日が暮れ始めると男性がくるのをじっと待つようになります。そして男性は翌朝早朝に自分の家に帰るようです。 

【一夫多妻制】

アフリカ大陸や、西アフリカに多い一夫多妻制。例えばセネガル・ナイジェリア・コートジボワール・ガーナ・モロッコ・エチオピア・ケニア・タンザニアなど。これは、宗教などの要因も関係があるようで、コーランによるイスラム法の下、男性ひとりにつき4人までの配偶者が持てるなどといった決まりもあるようです。また、シリアやパキスタンなどは、2人目以上の妻を認める際に裁判官の許可が必要で、モロッコやヨルダン、エジプトでは、すでに結婚している妻の了承が条件です。 

【一妻多夫制】

あまり聞くことがない一妻多夫制は、現実には非常に少なく、インドのトダ族やナヤール、チベット人、マルケサス島人、シンハラ人などの一部の民族のみでみられるようです。その中でも、兄弟同士で妻を共有する「一妻兄弟婚」と呼ばれるケースが大多数を占めます。また多くの場合、実際に男性たちによって共有されるのは、女性との性行為の権利のみ。誕生した子は、女性と最初に契約を結んだ男の実子と認定されます。

 

さまざまな考えから成り立つ結婚

いかがでしたでしょうか。

ここまであらゆる国の結婚式の伝統や、結婚事情について紹介してきました。ちょっとした豆知識になるような意外な風習や伝統もあったかと思います。そして現在、日本の結婚に対する考え方やシステムも変わりつつあります。事実婚や同性婚などが海外同様認められ、国から変わらぬサポートを受けることができる未来もすぐそこかもしれませんね。

この機会に「結婚」について考えていただけたら幸いです。きっと人の数だけ意見があることでしょう。たくさんの在り方を受け入れることができる世界になりますように。

 

 

Text by yumeka