茶道具を中心とした作品で国内外にファンを持つ陶芸家・小野穣氏。彼の代表作「猪目茶碗(いのめちゃわん)」は、ハート形のかわいらしいデザインと深い伝統が調和し、多くの人の心を魅了しています。「冒険陶芸家」という肩書を持つ小野氏に、柔らかな感性と真摯な姿勢から生み出される作品の魅力や、今後の展望についてお話を伺いました。
人生に寄り添う陶芸家・小野氏の創作哲学
陶芸家の小野氏は、作品づくりを通じて、器の持つ魅力を深く探求しています。彼にとって、器はただの美術品ではなく、人と共にあり続ける重要な存在なのです。
「人生に寄り添うモノツクリ」を求めて
「器は手で触れ、唇で感じることができます。それは絵画とも彫刻とも違うものです」と語る小野氏。陶芸は美術品ではなく、日常生活の一部として存在し、人とともに時を刻む存在であることに強く惹かれたといいます。
加えて、陶芸は焼き上がるまで結果が予測できず、「小さな奇跡」を待ち望む時間にも創作の面白さを感じるそう。このような偶然との対話が、彼の創作活動を形作っているのでしょう。
「茶碗に始まり茶碗に終わる」
子供の頃から茶道に親しんでいたものの、本格的に茶道具を手がけるようになったのは、陶芸を始めてから。「焼き物は茶碗に始まり、茶碗に終わる」という言葉を聞き、見よう見まねで茶碗を作り始めたといいます。そのころ、偶然出品した茶道具の企画展でグランプリを受賞。これがきっかけで小野氏の制作の中心は茶道具に。
掌の中の小さな彫刻
それぞれが持つ形、色、大きさ、そして手触りの違いが、「オンリーワンの世界観」を生み出す茶碗。小野氏は「茶碗は掌の中で大切に包み、愛でることのできる小さな彫刻」と語ります。茶碗は茶道における実用性を備える一方、使う人の心にも寄り添う存在。身近な存在でありながら、奥深さを感じます。
冒険陶芸家
「◯◯陶芸家」といった肩書きを表現するのが流行していたころ、自らを表現するため、「冒険陶芸家」というユニークな肩書きを思いつき、「材料を求めて山を歩く姿が、まるで映画の主人公インディ・ジョーンズのように思えた」というのが命名のきっかけだとか。しかし、現在は勝手に山から土を持ち帰ることは法律的に難しいため、「作品に対する冒険」という気持ちを込めて、この肩書きを使い続けているそうです。
猪目茶碗の誕生
小野氏の「猪目茶碗」は、女性向け茶道具の企画展を契機に誕生しました。ハート形の茶碗を作りたいという思いが、彼に新たな挑戦をもたらします。
ハート形から「猪目」へ
ハート形の茶碗は、女性の心をつかみましたが、男性の小野氏がハート形の器を作り続けることへの照れくささも生み出します。何かよい和名があれば…と探していたころ、京都の正寿院にある「猪目窓」と出会い、ハート形=猪目という発見に至ったのです。
猪目の歴史と魅力
ご縁から生まれる創作
小野氏の作品制作の源は、人との出会い。これまでに出会った人の考え方や経験が彼の世界観を広げ、作品に反映されています。人との出会い=ご縁、この「ご縁」という言葉が彼の創作活動のキーワードかもしれません。
また、作品に付けられる名前(銘)は、完成した作品を眺めているうちに自然と生まれるといいます。時には夢で見たイメージを具体化することもあるそうです。
お客様のもとで輝く茶碗たち
未来への挑戦
「ルイ・ヴィトンやロエベとコラボできたら」
夢は茶道具とブランドのコラボレーション。それだけに留まらず野点(のだて=お外でお茶を点てること)をテーマに、車と茶碗のコラボレーションや、ホワイトキューブと呼ばれる真っ白な空間で、色とりどりの猪目茶碗を床にちりばめたインスタレーションにも挑戦したいそう。
伝統を重んじながらも、新しい価値を生み出し続ける「冒険陶芸家」小野穣氏。彼の作品はその独自の視点と感性から生まれ、手に取る人々を魅了し続けています。
2024年9月6日、熱田神宮の門前にオープンした「妙香園 あつたnagAya店」では、猪目茶碗でお抹茶などが楽しめ、猪目茶碗の購入も可能です。
また、11月18日に東玉堂(名古屋市中村区)での催事、来年2月5日から2月11日まで伊勢丹新宿での個展も決定しています。これからの活動がますます楽しみですね。
プロフィール 福岡県生まれ。名古屋芸術大学彫刻科で造形を学び。その後セラミック科の研究生として陶芸を修める。メナード美術館(愛知県小牧市)にて学芸員を務めたのち、瀬戸市に開窯。代表作のハートをデザインした猪目茶碗は、その独創性と温かさが多くの女性の心をとらえ続けている。 国内では有名百貨店での個展開催や、海外(主にヨーロッパ)では個展やティーセレモニー等に多数出品し、多くの作品が注目を集める。また2020年4月から連載中の漫画『野点の茶世子ちゃん』にて原作を担当するなど、その活躍は多岐にわたっている。 |
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