会社に着てくるものとはまた違う、一段上質そうな漆黒のコートが神尾に良く似合っている。
クラシカルな店内には、カップルだけでなく、着飾った見るからにお金持ちの女性グループや、上品な家族連れもいた。
通された席は窓際で、ゆっくりと話もできそうだ。アユミの胸が一層高鳴る。
告白、いつでもどうぞ、という心持ちだ。
「店内も素敵だね、やっぱり神尾さんってお店詳しいのね」
「そうかな、名古屋のグランメゾンといったらここは有名だよ」
「来たことあるの?」
「前に一度ね」
例のごとく、誰と? と聞くのはやめておく。
「この店ね、前に友達のSNSで見たことあるの。誕生日祝いに来たって書いてあって、料理もすごく美味しそうで、来てみたかったから嬉しい」
「友達って前に写真送ってくれた?」
神尾がアユミの目を見つめた。思慮深く男性らしいまっすぐな瞳だ。
「そう、リサって言うんだけど、学生の頃から一番仲がいいの。旦那様がすごくグルメでね。あの時のお店は、行くたびに次の予約をいれてるんだって」
「へぇ、本当にあそこは予約取れないよね。羨ましいな。ちなみに、その友達のご主人は何してる人?」
投資のようなことをしているらしい、と話しながら、ネットでリサの夫の名前を検索してみた。今まで調べたことはなかったが、アユミが思っているよりもずっと社会的に影響力のある人のようで、プロフィール写真もかなり決まっている。
「へぇ、すごいね。アユミちゃんの友達も美人だね」
神尾がアユミのスマホの画面を見ながら呟いた時、料理が運ばれてきた。その話はそこで一旦切りあがったものの、デザートを食べ終わる頃には、どういうわけかリサの夫婦と4人で食事をしようという話になっていた。
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誕生日を神尾と過ごすことが出来たアユミ。だが思いとは裏腹に不安な翌日を迎える・・・?