NOVEL

踏み台の女 vol.6 ~特別な誕生日~

 

神尾との待ち合わせ場所は、高岳だ。

高岳には、1カ月前にもリサと食事にきたばかり。アユミの一人暮らしの家は本陣だから、普段は高岳にくる機会はあまりないのだが、どうやら最近縁があるらしい。

 

一昨日神尾から送られてきた店は、ラ・グランターブルドゥキタムラといって、金城学院の中学、高校が近くにあるからか、金城出身の女友達から名前だけはよく見聞きするレストランだった。

リサのSNSでも友達との誕生日祝いに来たと投稿されていた気がする。落ち着いたクラシカルなグランメゾンで、見るからに記念日向きの店と分かる。

 

駅から徒歩5分程度のはずだが、気合を入れて履いてきたイベント用の黒いピンヒールに足運びを取られ、10分弱掛り、その上、途中で踵に靴擦れをしたらしい。ヒリヒリと痛みを感じたが、こんな日に靴擦れ用の絆創膏を貼るのは野暮というもの。

 

(痛い、けど一日くらい我慢)

 

寒さもあり冷えた体で店の前へたどり着いた時には、アユミは体力の半分以上を消耗していたが、店前にはまだ神尾らしき人影は見えない。

約束の時間まであと5分。少し離れた場所に立って、アユミは店を眺めた。写真通りの門構えの立派さに、アユミは目を見張る。まさに旧邸宅といった風情だ。 

 

同じ時間に予約しているらしき客が、タクシーでやってきては何組か中へ入っていく。

見るからに品の良い客層で、アユミは今一度自分の服装を確認した。

 

ベージュのロングコートに、ファーのマフラー。コートの中は、タイトシルエットのブラックワンピースだ。浮かない、大丈夫なはず。とアユミは自分に言い聞かせる。

 

と、そこへタクシーがまた一台やってきて、中から神尾が降り立った。アユミがコツコツとピンヒールを鳴らしながら駆け寄る。

 

「神尾さん」

「あ、先着いてた?」

「大丈夫。さっき来たところ。それより、ねぇ。ここ、来てみたかったお店なの」

 

アユミが言うと、神尾が「そう? ならよかった」とこだわりなく言った。

 

「入ろうか」とアユミをエスコートするでもなく、神尾が門をくぐり入っていくので、後ろ姿を追いかける。