202X年5月7日 日曜日 1時PM
カラン♪ドアのベルが来店を知らせる。ウエイターが近付くより先に、窓際に座っていた由衣が手を振った。
「紗希ちゃん、こっち!」
柔らかな日差しの中で花の様な笑顔で由衣が出迎える。
「よく分かったわね、20年ぶりなのに」
紗希はテーブルにつきながら、由衣に視線を送る。
渡されたメニューを手に、ページをめくると由衣が話しかけてきた。
「だって、紗希ちゃん、全然、変わってないわ」
20年経って変わりがないと言われ、喜ぶべきなのか分からないが・・。
「悪い意味じゃないわ。とにかく、すぐ分かったの」
ふふっと笑みを漏らしながら、由衣が言う。
そういう由衣も小学校時代の面影を残している。
「くせ毛だから嫌になる」
雨の日にくるん、とカールする前髪をいつもカチューシャで抑えていた由衣。
真っ白な肌にピンク色の頰。
イチゴのように赤い唇がまるで中世の絵画のようだ。
化粧のせいだけではないだろう。
小学校の頃からフランス人形の様に愛らしかった。
同窓会の案内を受け取ってすぐ、紗希は出席の返事を出した。
その際に書き入れた携帯電話宛に着信があったのは、それからすぐのこと。
202X年4月29日 土曜日 4時PM
♩♬〜
「誰からかしら?」
休日の午後、ふいに電話が鳴った。携帯の画面には見覚えのない番号が表示されている。紗希は少し躊躇った後、着信ボタンを押した。
「もしもし、宮田紗希さんの携帯でしょうか?」
電話口で女性の声が尋ねる。軽やかで鈴がなる様な声だった。
「・・そうですけど、どちらさまでしょう?」
聞き覚えがある様にも思える声の持ち主を尋ねる。
「紗希ちゃん?私!由衣よ!斎藤由衣。分かる?」
声のトーンが上がる。その瞬間、紗希の脳裏に思い出が鮮やかに蘇えってきた。それは小学校時代、一番仲の良かった友人の顔だった。
「・・由衣ちゃん?」
思いがけない相手からの電話に声が上ずった。
「そう!由衣!紗希ちゃん、なつかしい!」