NOVEL

夫婦のカタチ vol.8~転機となる日~

「奈緒美さんと康平くんを見てると昔の自分達夫婦を見ているみたいなんだよね。実は2年前くらい、直人がまだ2歳だった頃、僕ら夫婦は離婚しようとしてて。まぁ原因は生活のすれ違いってやつかな。俺も康平くんみたいに今までそこまでの苦労なしに器用に生きてきた人間だったのに、育児のサポートと仕事の両立ができなくて。けど強がって綾香には言えなかった。気づいたら綾香と直人から目を背けてたし距離もどんどん遠くなってたんだ。

お互い嫌いになったわけじゃないのに歩み寄れないってだけで別れるのは、正直悔しいよね。だから最後に綾香としっかり話し合って、じゃあお互い一から気持ちを入れ替えて 言いたいことが伝えあえる夫婦を目指そうとやり直したんだ」

 

今の綾香さんと修司さんを見ていると、互いをリスペクトしあいながらできないことは支えあっている、理想の夫婦だと感じられる。

でもそんな2人ですら子育てを前にして悩み、すれ違うそんな時期があったことに私は驚きと同時に少しの安心感を覚えた。

 

もうこれから康平とは昔のようにやり直せないかもしれない。

そう諦めていた自分の中に"私たちもやり直せるかも・・・"という微かな希望が感じられた。

 

そして希望を感じたのは私1人だけではなかったようだ。

 

康平は決心したような深呼吸をするとゆっくりと重い口を開くように話し出した。

 

「僕も修司さんと一緒で男としていつしか奈緒美に弱みを見せられなくなってたんだと思います。家の外では完璧に仕事をこなす人間だったからこそ、育児と両立できない不甲斐ない自分にいつしか蓋をして過ごしてきたのかもしれないです。

一人前の母親になった奈緒美を見て日々父親として焦っていて、だからこそ勇希が怪我をした時なんかはつい庇う気持ちを忘れて、母と一緒になって奈緒美を追い詰めてしまったかもしれないです。奈緒美、今までごめんな」

 

康平の心の中を初めて覗けた気がした。私は出会ってから結婚、出産をして、康平と一緒に長いこと過ごしてきた時間の中で、彼の弱く脆いところにまったく気づけていなかった。

 

「この2年間、全然子育てを何もしないできちゃったけど、今からでも奈緒美みたいに立派な親に僕もなれますかね」

 

勇希にもしっかり向き合ってくれたことが何よりも嬉しく、私の目には自然と涙が溢れていた。

これから先、家族に何があっても今日の気持ちを忘れない限り、3人で乗り切れる気がした。