「こんなの母親失格よ」
そう怒りながら義母は勇希を連れてリビングに向かっていった。
すると義母の後ろにいた康平と目が合う。
私は康平に心の中で「たすけて」と呟いた。
けれど康平は
「連絡もなしに子供が怪我して帰ってくるなんて。母さんがあんなに怒るのも無理ないね」
と、どこか他人事のような顔をする。
私の心の声は昔のように康平には届いていない。
1人取り残された玄関に私の心の声が雫となって落ちる。
この雫もきっと康平には届いていない。
そして私は相変わらず報われないのだ。
-籠の中の鳥-
義母はその日のうちに帰り、次の日から康平は出張で家を空けた。
義母に言われっぱなしでひたすら謝ることしかできなかった私の心には、
勇希を傷つけてしまった悲しさと同じくらい、ワンオペ育児の苦労をわかってもらえない悔しさがシコリのように残った。
そして何よりも責められ、謝りつづける私をかばってくれることなく、気にかけない康平に対するモヤモヤがいつまで経っても晴れずにいた。
そんなどんよりした気持ちの中、勇希の頭の腫れが引くまでの数日間、私はひたすらに家事をこなして外に出ることもなく過ごした。
勇希と二人きりの時間が続く。
とても穏やかな時間であると同時にそれは時が止まったような感覚だった。